健康寿命をのばそう SMART LIFE PROJECT

SLPとは

宮地元彦 先生

国立健康・栄養研究所 健康増進研究部長 宮地元彦 先生からのメッセージ

「健康寿命」をのばす3ポイント ~メタボ・ロコモ・ニューロ~

身体活動・運動の不足は、我が国の医学研究をすべて集めたメタ解析等をしてみますと、喫煙、高血圧に次いで、3番目の死亡のリスクだというふうに言われています。この結果は、私たちが思っているよりもかなり、身体活動が私たちの生活寿命に影響を及ぼしている、ということを知らせてくれた研究の成果であります。

身体活動・運動不足は、日本人の脂肪の3番目のリスク

今、厚生労働省では、単に「寿命」をのばそうというだけではなくて、「健康でいられる寿命」をのばそうということを大きな目標にしております。健康寿命とは、介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間のことを指しています。

残念ながら日本では、男性の平均寿命がほぼ80歳であるのに対し、健康寿命は70歳。女性の平均寿命が86歳であるのに対して、健康寿命は73歳ということで、男性では9歳、女性では13歳、元気に過ごせていない期間があるというのが、ひとつの大きな問題になっています。

この健康寿命を阻害する要因というのが、最近の医学研究で分かってきました。

1つ目は昔から言われていますように、心筋梗塞や脳卒中やがんといった、私たちの内臓や血管の機能が衰えていくというもの。その背景にはメタボリックシンドロームや肥満があるわけであります。

2つ目は、内臓は元気なんですが足腰の具合が悪い、すなわち骨が転んで折れてしまったとか、あるいは膝や腰が痛いとか、筋肉が衰えてしまった、こういった運動器の問題「ロコモティブシンドローム」通称ロコモです。

それから3つ目は、運動器も足腰も内臓も元気なんだけれども、ちょっと最近ぼけちゃってねということで認知症、うつなどの心の状態です。これも非常に重要な問題です。

メタボ、ロコモ、そしてココロ(心)、この3つがすべてバランスよく健康でないと、健康寿命を維持することができないということが分かってきたわけであります。

このメタボ、ロコモ、ココロは、身体活動や運動の不足、過食、偏食、不規則な食生活といった栄養の問題、そしてたばこ、たばこも本人のたばこの問題だけではなくて、受動喫煙の問題。そして休養の不足といったようなものが、複合的に絡み合って影響し合い、健康寿命の阻害に成り得るんだということが分かってきています。

認知症も実は、生活習慣病、特に身体活動、運動の不足が関わっているということが分かってきたところです。

さて、ここまでで、運動が健やかに生きることにとって、大切なことだとご理解いただけたのではないでしょうか。次は、現状の課題と、どうしていけばいいのか、について具体的にお話さしあげたいと思います。

日本人の身体活動・運動の現状

人間が体を動かすことを身体活動というふうに言います。この身体活動は二つの要素から成り立っています。

ひとつは目的を持って行うスポーツだったり、体力作りの運動です。こういった運動をやれば健康になるということは、昔からよく分かっていました。しかし最近の研究で分かってきたことは何かと言うと、日常生活を営む上で必要な、労働や家事にともなうような活動、例えば通勤で歩いたり、あるいは仕事や家事をしたりといったようなことも、実は健康にいいんだということが分かってきたんです。

そこで、この運動と生活活動を足したものを身体活動と言い、運動でなくても、生活活動を増やしたり、身体活動全体を増やすだけでも、健康になりますよということが明らかになったわけです。

その身体活動が今、現状どうなっているのかをみてみましょう。

10年間の性別・年代別の歩数の変化

歩数、というのはスポーツはもちろん、家事や通勤だけでも増えますので身体活動全体の指標なんですが、残念なことに、男女共に過去10年間で約1000歩も減っている。これはだいたい10分、歩く時間が減っているということです。10分歩く時間が減るということは、カロリーに直すと30キロカロリー、1日に使わなくなるということを示しています。30キロカロリーなんてごはん二口だから大したことではない…と思うかもしれませんが、365日これが続きますと約1万キロカロリーのエネルギーになります。

1万5000キロカロリーを体重に直すと、体重1キロが大体7000キロカロリーですから、10年前の日本人よりも今の日本人は、1年間で1.5キロぐらい太りやすいような身体活動の状況にあるということです。日本人が確実に身体活動不足になっているということを示す結果であります。

10年間の性別・年代別の運動習慣者の割合

それから運動習慣者の割合をみてみましょう。若干増える傾向にあるんですが、残念なことに20代から50代の働き盛りの女性の運動習慣が減っているという、非常に残念な結果があります。女性の運動習慣を増やしていくような環境整備というのも、非常に重要かなというふうに考えられますね。

私たちの身体活動が、一人ひとりの健康に関係しているということはよく知られていますけれども、実は1日1時間ぐらい歩く方とそうでない方を比べると、歩く方のほうが医療費が、4年後には15%低いということが分かっています。

身体活動量と医療費

1人につき1年あたりで、大体2万円から3万円違うということですね。100人なら200万円、1000人なら2000万円、1万人なら2億円ということですから、結構大きな金額であります。私たちが身体活動を増やすことは、単に一人ひとりの健康だけではなくて、私たちの社会保障、国のいわゆる生活基盤を維持する上でも、企業の財政維持の視点においても、非常に重要なことだと言えるのです。

これからの健康づくりに「+10(プラス・テン)」

こういった問題を背景に、厚生労働省では、歩数を1000歩増やしましょう、運動習慣者を増やしましょうということに加えて、住民が運動しやすい街作りや環境整備に取り組む自治体を増やしましょうという、大きな三つの目標を掲げているわけです。

そういった取り組みをサポートする上で、運動身体活動の分野において、国のガイドラインということで定められているのが『アクティブガイド』です。

非常にシンプルにまとめられた資料であり、そのメインのメッセージとして掲げられているのが、+10(プラス・テン)です。「今よりも10分多く体を動かすだけで健康寿命をのばせます、あなたの+10で健康を手に入れてください」というメッセージになっています。

アクティブガイド

「健康づくりのための身体活動基準2013」で定められた基準を達成するための実践の手立てとしての、国民向けガイドライン

アクティブガイド

ダウンロードはこちら

この+10、 10分を主に意図していますが、10個や10%としても、使えます。身体活動の量や効果というのは、両反応関係といって、増えれば増えるほどよいという効果があったりするんです。例えば今1万歩歩いている人も、3000歩しか歩いていない人も、やはり良い方向に持っていくためには増やしたほうがいい。(上限値はありますが、考え方として知っておいていただければと思います。)

実はこういったアプローチは、国際的にも目新しく、今後普及していく必要があるのではないか、ということで英語版を作り、各国の学会でも発表していて、関心をいただいているところです。

わかりやくアクションしやすい、この+10を、私ども運動の専門家もしっかり普及啓発して頑張っていこうと思っています。是非、この記事をお読み下さった皆さんも、今日から10分、今よりも10分多く体を動かすということに取り組んでいただきたいと思います。

身体活動を+10で、健康寿命をのばしましょう!

宮地 元彦(みやち もとひこ)先生 プロフィール

国立健康・栄養研究所 健康増進研究部 部長

独立行政法人国立健康・栄養研究所 健康増進研究部長。博士(体育科学)。
1965年愛知県生まれ。
鹿屋体育大学スポーツ課程卒業後、川崎医療福祉大学助教授、米国コロラド大学客員研究員を経て、
2003年より国立健康・栄養研究所に勤務。
研究テーマは、「健康づくりのための身体活動」。
厚生労働省の『エクササイズガイド』や『健康日本21(第2次)』の策定などに関わるほか、テレビや雑誌、各地の講演会など多方面で活躍。任天堂『Wii Fit Plus』の開発にもアドバイザーとして携わる。

※記事中のデータは取材当時のものです。