健康寿命をのばそう SMART LIFE PROJECT

SLPとは

中村 正和 先生

大阪がん循環器予防センター 予防推進部長 中村 正和 先生からのメッセージ

ゆっくりでも確実に進んでいるたばこ対策

禁煙、というアクションから一歩視点を変えて、皆さん方に今、日本において、たばこ対策がどんな現状にあるのか、また今後どういう課題があるのかということについて理解をいただきたいと思います。そして、是非、企業や団体の皆さん、そして取り組まれるお一人おひとりと一緒に、禁煙やたばこの煙のない社会の実現を目指していきたいですね。

皆さんもご存じの通り、たばこの害はたくさんあるわけです。百害あって一利なしというのはまさにたばこのことであります。(詳しくは、この記事を読み終わったら、WEB-Learningをのぞいてみてください!)

ただ、たばこの健康影響が明らかになってきたにも関わらず、なかなかそれがすぐ対策につながらないという現実もあり、そこには、たばこ事業法の存在など、いろいろな原因があるんです。そのような困難の中で、皆さんの目にはなかなか進んでいないように見えるかもしれませんが、ここ10年間でもいくつか進展がありましたのでご紹介します。

たばこ対策として、厚生労働省の研究班の立場で学会と協同しながら、政策提言をしてきました。そのような活動の結果、2006年の禁煙治療の保険適用、2010年の約110円の値上げ、それから2012年の喫煙率の数値目標の設定(成人喫煙率4割減など)、2013年の第2期の特定健診・特定保健指導で喫煙の保健指導を強化、といったような政策化が推進されました。

実は、日本の健康保険の制度においては『予防』は給付の対象ではないんです。ワクチンは健康保険で適用がされないというように、たばこを病気になるからやめよう、というのは予防の領域に位置づけられていました。

それで、どのような対策の基本方針に立ったかというと、喫煙そのものが病気なんだ!と。病名はニコチン依存症であり、その治療をするので、健康保険の適用を、様々な研究者、学会と一緒になって、資料を準備して、政策実現の支援を行いました。

例えば禁煙治療を社会に適用したら、将来的にどれぐらい医療費に影響を与えるかというのも非常に重要な話で、当面は治療費のほうが上回るんですけれども、将来的には医療費の大きな削減につながるというデータも提出したんですよ。今では実施率が1%まで上昇してきましたので、より大きな医療費の削減効果が期待できます。

保険適用に基づいた推計(累積)

お金の話が出てきましたので、たばこの値上げについても、触れてみましょう。2010年の値上げは、日本では初めての100円台の幅の値上げでした。税収の落ち込みは全くの杞憂でした。値上げにより、喫煙率が前年に比べて男性6%、女性2.5%減少(減少率にして男女とも約20%の減少)がみられました。さらに、販売数量も値上げ前に比べて値上げのあった年は2倍程度減少しました。一方、税収や販売額は、値上げ幅と消費の減少のバランスから、ともに増加しました。結果として、短期的には喫煙率も販売量も下がりましたが、長期的には続かず、公衆衛生的には2010年の値上げは対策としては十分でないというのが結論です。

これは、日本のたばこは、欧米先進国に比べてまだまだ非常に値段が安いので、100円程度の値上げでは本数を減らしたり、他のお小遣いを調整することで対応ができるということです。今後大幅な値上げか、100円程度であれば、定期的に上げていかないと、国民の健康は守れないということです。

これからの目標と社会環境整備

健康日本21とは、健康増進法に基づき策定された方針や目標を、厚生労働省が 21世紀における国民健康づくり運動として打ち出した活動です。平成24年度に第2次として、内容の見直しが行われ、喫煙分野も第2期の目標設定がなされました。

第1の目標は「喫煙率の低下」です。第1期と同様、未成年者の喫煙0%に加えて、新たに成人の喫煙率の減少目標(19.5%を12%と4割減)と妊娠中の喫煙0%が掲げられました。

第2の目標として、新たに「受動喫煙の場所別の数値目標」が掲げられました。主なものとして、受動喫煙の機会を有する割合を、行政機関・医療機関の0%、職場の禁煙・分煙化の100%、家庭や飲食店も大幅な減少を目指しています。

さて。これからの課題について、お話しましょう。

上述の成人の喫煙率の数値目標の達成に必要な対象を明らかにするため、私の所属している厚生労働省の研究班で試算をしました。その結果、以下の政策ミックスを実施することが必要であることがわかりました。すなわち、①少なくとも200円のたばこの値上げを行う、②受動喫煙の防止を国際基準並みに罰則付きで法制化する、③特定健診の場での喫煙の保健指導を広く普及する、④やめたい人が気軽に電話できるような相談窓口としてのクイット・ラインを普及する。

喫煙率が20%ぐらいまで下がってくると、他の国でもだんだんブレーキが掛かってくることがわかっています。たばこをやめにくい人が残ってくるので、同じペースでは下がらなくなるんですね。そのことを考えると、これまで以上に、環境整備を強化して、国や自治体、企業など、社会全体で取り組むことが重要になっているんです。

来る2020年の東京オリンピック、皆さん、楽しみにしてらっしゃるのではないでしょうか?

実はオリンピックは、IOCとWHOが合意文書を結んで、スモークフリー・オリンピックにしましょう、ということになっています。2008年以降、どの開催地でも、法律(ないしは条例)が出来ています。わが国でも、今こそ受動喫煙の防止を推し進める、一つの大きな契機にさしかかっているところです。

自治体として、既に神奈川、兵庫が条例を施行していますが、この国の首都である東京を中心に動き始めれば、スモークフリー国家の実現にむけてダイナミックな動きへとつながるかもしれません。

さて、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。日本の健やかな未来に向けて、皆さんが、たばこの煙のない社会の実現のために、一歩、何かを具体的に考え、取り組んで下さることを願っております。

たばこの煙のない健康社会で、健康寿命をのばしましょう!

中村 正和 (なかむら まさかず)先生 プロフィール

公益社団法人地域医療振興協会
ヘルスプロモーション研究センター センター長

医師、労働衛生コンサルタント。

1980年自治医科大学卒業。厚生労働省循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究班研究代表者、厚生科学審議会専門委員(健康日本21(第二次)推進専門委員)、厚生労働省スマート・ライフ・プロジェクト実行委員会副委員長、厚生労働省国民健康・栄養調査企画解析検討会構成員など。

専門は、予防医学、健康教育、公衆衛生学。

※記事中のデータは取材当時のものです。