健康寿命をのばそう SMART LIFE PROJECT

健康寿命をのばそう!アワード

「第1回健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 最優秀賞 受賞健康寿命日本一に向けた ふじのくに の挑戦

静岡県

全国に先駆けて2008年度にスタートした特定健診のデータを分析し、その結果を健康課題マップとして「見える化」することで、県民の健康づくりにつなげたのが静岡県です。データを生かした市町・企業との連携も進んでおり、これらの成果が評価され、2012(平成24)年度開催の「第1回健康寿命をのばそう! アワード」において厚生労働大臣 最優秀賞を受賞しました。受賞から約10年、データヘルスのモデルケースとして現在も進化し続ける静岡県の取組の『現在地』について、静岡県 健康福祉部 健康増進課 課長の島村通子さん、同 健康政策課 課長の藤野勇人さんにお話を伺いました。

(画像・資料はすべて静岡県による提供)

――静岡県は、特定健診データをもとに地域ごとの健康課題を分析し、積極的に健康寿命の延伸に向けた事業や施策を展開しています。こうした取組が高く評価され、「第1回 健康寿命をのばそう! アワード」で厚生労働大臣 最優秀賞を受賞されました。アワードの受賞以後、健康づくり施策をどのように発展させてきたのでしょうか。

島村通子さん(以下、島村さん):アワードを受賞してからも、引き続き「健康寿命日本一」を目指して中長期的な視点で取組を発展させています。特定健診データのマップ化によって、県の東部の市町にメタボリックシンドロームや高血圧症などの該当者が目立ち、西部に糖尿病の予備群が多いという各市町の健康課題が明確になった反響は大きく、県では2012年度に「ふじのくに健康寿命プロジェクト」をスタートさせました。このプロジェクトは、団塊の世代が後期高齢者になる2025年を目標に、県民の健康寿命の延伸を目指すもので、「健康長寿プログラムの普及」「健康マイレージ事業」「企業との連携」「健康長寿の研究」「重症化予防対策」という5本柱をテーマにしたものです。

 「健康長寿プログラム」の一つである「ふじ33プログラム」は、運動・食生活・社会参加という3つの要素の行動メニューを3人1組で3か月実践し、望ましい生活習慣を獲得することが目標です。3要素の行動メニューは、県独自に10年間行ってきた約2万2,000人の高齢者を対象とした追跡調査の分析結果をもとにしています。

 「健康マイレージ事業」は、健康づくりの取組に応じてポイントが付与され、ポイント数に応じて特典が受けられたり抽選で景品がもらえたりするもので、市町が実施するマイレージ事業を県が支援しています。

 「企業との連携」は、健康づくりの優れた取組に対する表彰制度などを通じて、企業の健康づくりを支援するものです。健康寿命の延伸に向けた取組には、市町をはじめ、健康保険組合、企業、大学、医療機関など、さまざまな関係機関との連携を欠かすことはできませんから、市町や企業などと連携、支援に重点を置いて取り組んできました。

――現在の静岡県の健康課題としてはどのようなことが挙げられるのか教えてください。

島村さん:厚生労働省が発表した2019年の健康寿命によると、都道府県別で静岡県は男性が73.45歳、女性が76.58歳で、ともに全国5位です。前回の2016年の調査では、男性が6位、女性が13位だったので回復傾向にあるといえますが、平均寿命との差を縮めることが、なお課題となっています。

 また、現在の課題としては、糖尿病の予備群は減少傾向にあるものの、有病者が男女とも増加傾向にあることです。地域で見ると、県東部は糖尿病の有病者が多く、中・西部は予備群が多いという傾向があります。特定健診の問診票によると、東部では「朝食を抜く」「就寝前2時間以内に夕食をとる」「毎日飲酒する」との回答が多く、中・西部では「運動習慣がない」「歩く速度が速くない」との回答が目立ち、この違いが状況の違いにつながっていると考えています。このように健康課題には地域性があり、それぞれにきめ細かく対処することが必要です。

――地域による健康課題の違いに対応する上で、ポイントとなることを教えてください。

島村さん: 2023年度までの「第3次ふじのくに健康増進計画」では、すべての県民が健康で活躍できる地域づくり、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。具体的には、県を賀茂、熱海、東部、御殿場、富士、中部、西部の7地域に分け、それぞれの地域を管轄する県の健康福祉センターが中心になって、地域の特性に応じた健康づくり活動を展開しています。

 県が収集・分析した健診データなどをもとに、健康課題に対する施策や、地域別の健康づくりプログラムを作成し、健康福祉センターが学校や企業などと連携して実践しているところです。同じ地域であっても、海側の地区と山側の地区では食習慣などが異なり、健康課題も違ってきます。ですから地域の中のさらに小さい単位である地区にまで目を配り、よりきめ細かな健康づくりを行うことが求められます。また、運動習慣の定着に向けて、どのような働きかけが有効かといったことについて調査をしています。

 行動変容を促すためのアプローチとしてナッジを活用することも考えており、ナッジ勉強会を2020年から始めましたが、コロナの影響で予定通りに進められていません。

――民間と協働した健康づくりの取組も強化していますが、詳しく教えてください。

島村さん:「民間協働による健康課題解決」は、2020年からスタートさせたプロジェクトで、地域別の対応と並んで力を入れているものです。野菜摂取量や食塩摂取量の改善に向けた「しずおか健幸惣菜」、運動習慣の改善に向けた「働く人向け健康長寿プログラムの開発」「健康づくりウォーキングラリー」などの取組があります。

「しずおか健幸惣菜」は、県の栄養士会と一緒に定めた基準を満たす、野菜がたっぷりで塩分控えめのおかずです。このおかずを提供する社員食堂や学生食堂、弁当などにして販売するスーパーマーケットや惣菜店を、「しずおか健幸惣菜パートナー」として登録しています。2022年2月21日現在の登録数は、惣菜・弁当部門のスーパーマーケットや惣菜店が60施設、社員食堂部門が43施設、学生食堂部門が2施設の合計105施設。ロゴマークを公募したり、レシピを提供したりするなどして、「しずおか健幸惣菜」の周知、パートナーへの登録の促進に努めています。

――健康寿命の延伸には、高齢者の健康づくりや介護予防に向けた対策も重要です。静岡県ではいかがですか。

島村さん:健康寿命の延伸に向けて高齢者を対象に行っている取組が、「高齢者の保健事業と介護予防との一体的な実施」です。医療と介護は保険の種類が異なることから、事業の連携が取りにくいという構造的な課題がありますが、その解消につなげるための一つのツールとして、2012年から在宅医療・介護連携情報システムの「シズケア*かけはし」の普及と活用を進めています。

 このシステムは、患者である高齢者の主治医、ケアマネジャー、訪問看護師、薬剤師などがチームを組み、さまざまな情報を共有するものです。高齢者が住み慣れた地域で安心して医療・介護を受けられるようになるという特長があります。今では県内の多くの市町が参加し、各地の医師会が中心になってシステムを運用しています。

 健康寿命の延伸とは観点が異なりますが、2021年7月に発生した熱海市の「伊豆山土石流災害」では、このシステムを通じて被災地近辺の病院の病床数や薬局の状況、避難者数などを関係者で共有することができ、迅速で適切な支援につなげることができました。

――高齢者を対象にした取組も、地域の実情に合わせることが大切なのですね。

島村さん:そうですね。2021年度から2023年度までの予定で行っている「第9次静岡県長寿社会保健福祉計画」でも、「在宅生活を支える医療・介護の一体的な提供」と並んで、「誰もが暮らしやすい地域共生社会の実現」「認知症とともに暮らす地域づくり」などを掲げていて、地域での取組を重視しています。

 例えば、地域での高齢者の支え合い活動として、島田市ではゴミ出しや買い物代行などを行う生活支援サービス、磐田市では掃除や洗濯などを行う家事援助サービス、函南町や藤枝市では移動支援サービスをそれぞれ実施しています。

特に、移動支援サービスは利用者が希望する場所まで自動車で送迎するもので、静岡県としても普及に力を入れています。ただし、利害関係のあるタクシー会社や道路運送法などの法律との調整が必要になるので、静岡県の場合はNPO法人全国移動サービスネットワークの協力を得ながら、円滑な実施に努めています。

 認知症の方の支援では、2019年度から「ピアサポート活動」を開始し、市町での取組を支援しています。ピアサポート活動とは、仲間によるサポート活動の意味で、認知症の本人に協力いただき、ピアサポーター(現在は「ピアパートナー」と呼称)が、同じ病気の人同士が抱える問題や不安などの相談に応じたり、思いを共有する場である本人ミーティングを実施しています。2020年9月には「静岡県希望大使」を任命しました。希望大使は、そもそもは厚生労働省が2020年1月に5人の認知症の人を任命したもので、都道府県が任命する地域版が静岡県希望大使です。全国の自治体では初めての任命で、静岡県が開催する啓発イベントなどでの講演や、自らの体験や希望などに関する情報発信などを行うことになっています。

2020年9月30日、全国初の地域版の認知症本人大使「静岡県希望大使」に任命された三浦繁雄さんの委嘱式の模様。三浦さんは2019年7月から、県のピアサポーターとして、本人ミーティングでの相談支援などを行っている。

――子どもたちへの健康教育としては、どのような取組を行っているのでしょうか。

島村さん:市町の食生活改善推進員に参加してもらって、幼稚園などでクッキング教室を開催したり、小学校で受動喫煙防止を目的とした「子どもから大人へのメッセージ」と名づけた授業を行ったり、「子どものころからの生活習慣病対策」というビデオ教材を作成し、教育委員会と連携して授業で活用したりといったことを行っています。また、県が収集・分析した生活習慣病関連のデータを使って、養護教員が過度の肥満児の保護者に食事指導をしたり、学校によっては親子クッキング教室を開催したりと、多様な取組を展開しています。

――新型コロナウイルスの流行によって、健康づくりの取組が影響を受けているのではありませんか。

島村さん:静岡県だけでなく、どの自治体でも同じだと思いますが、コロナ流行によって、健診・検診から、どうしても人々の足が遠いています。特定健診やがん検診の受診率が低下しているため、生活習慣病の重症化やがんの発見の遅れにつながることが懸念される状況です。また、コロナ感染の心配から高齢者の社会活動も制限を受けるようになり、不活発な暮らしによって心身の機能低下が心配されています。

――静岡県ではコロナ下で健康づくりをどのように変化させてきたのでしょうか。

島村さん:高齢者のコミュニケーションの場であり、介護やフレイルなどの予防につながる「通いの場」が、コロナ流行により休止されたことから、2020年6月に、掛川市、三島市、吉田町でオンラインによる「通いの場」を実施しました。これはモデルケースとして行ったもので、それぞれの通いの場に参加している高齢者にタブレット端末を貸し出し、オンライン会議システムを使って理学療法士が体操を指導したり、参加者同士がコミュニケーションを図ったりといったことを行いました。この取組の成果として、参加者の身体機能の向上が図られ、参加者同士のつながりも生まれました。デジタル機器を使い始める際に適切なサポートをすれば、高齢者でも使いこなすことができると分かったことも貴重な成果です。

コロナ流行の影響で「通いの場」が休止されたことを受けて実施した「オンライン通いの場」モデル事業の概要。

 2021年12月には、健康づくりを応援するサイトとして、「ふじのくに むすびば」を開設しました。約400カ所の通いの場や認知症カフェなどの紹介や、県内の46種類のご当地体操やハイキングコースの紹介、減塩レシピなどの動画コンテンツを掲載しています。チャットボットを使ってサイト内をナビゲートするといったように、使いやすさとわかりやすさに配慮しました。

県民の健康維持・増進に寄与する「新しいつながりの創出を目的としたWebサイト「ふじのくに むすびば」。コンセプトは「県民みんなが健康で、元気に暮らせるように。そんな想いをたくさん詰めて、ぎゅっぎゅっと“むすび”ました。健康になりたいあなたを応援します」。

――デジタルやIoTを活用した対応が、コロナ下では有効といえそうですね。

島村さん:特定健診やがん検診の受診率の向上を目標に、2021年6月に受診を促すキャンペーン、「Go Toけんしん!」を実施しました。しかし、コロナ下なので、街頭で受診を呼びかけるといった広報活動ができず、やや物足りない取組になってしまいました。現在は「ふじのくに むすびば」などで受診に関する情報を提供しているほか、SNSやアプリを活用した保健指導の導入を検討しています。コロナ流行がなければ、IT化やIoT機器の活用は進んでいなかった可能性が高いので、思いがけない効果と言えるかもしれません。ただし、保健指導などは、オンラインでは伝えきれないこともあります。コロナの感染状況が落ち着けば、これまでのような形で行うことを検討していきたいと考えています。

――健康寿命延伸に向けた今後の取組について、予定していることやポイントを教えてください。

藤野勇人さん(以下、藤野さん):健康寿命の延伸を実現していくためには、何より科学的知見が欠かせません。そのため静岡県では2021年4月に静岡社会健康医学大学院大学(静岡SPH)を開校し、今後は、静岡SPHと連携して医療・介護に関連するデータの収集・分析を行うとともに、データの利活用を進めていきます。静岡SPHが分析したデータをもとに県民の健康リスクを把握し、疾病予防や健康づくりなどに関する施策立案に役立てるほか、行動変容モデルの開発などに取り組んでいく予定です。また、ビッグデータの分析・活用がより一層求められていることから、静岡SPHにはデータサイエンティストの養成機関としての役割も期待されます。

医療・保健・福祉に関する科学的研究と成果の活用推進を目的に設立された静岡県社会健康医学大学院大学(静岡SPH)。

島村さん:特定健診などのデータ分析は、これまで私たち職員が行ってきましたが、これからは専門家が行うことによって、より詳細な分析や新たな視点などが獲得できるのではないかと期待しています。

藤野さん:静岡SPHの構想は、健康寿命の延伸に寄与する研究・教育機関が必要との有識者の提言から生まれたものです。2016年度に設置された有識者会議の提言等をもとにして開校の準備を進めてきました。学部を持たない公衆衛生系の大学院大学は全国で初めてで、静岡県が設立して公立大学法人として運営しています。

「働きながら学べる」がコンセプトで、授業は金曜日の午後と土曜日のみ。現在19名が学んでいて全員が社会人で、現役の医師や保健師、製薬会社の社員などが通学しています。静岡県では、静岡SPHの開校に合わせて健康政策課を新設しました。大学院大学の研究・調査結果を政策に反映しながら、課題の解決を図っていきたいと考えています。

島村さん:静岡県では脳内出血などの脳血管疾患で亡くなる男性が全国より多く、その要因の一つである高血圧対策が課題となっています。コロナ流行の沈静化が第一ですが、今後は、健康政策課、健康増進課、国民健康保険課と静岡SPHとが連携して、高血圧対策に取り組んでいく必要があると考えています。

※記事中の部署・役職名は取材当時のものです。