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第4回アワード 厚生労働大臣 最優秀賞 受賞100円朝食による学生の健康管理、生活リズムの維持活動
立命館大学父母教育後援会
(厚生労働省 健康局 健康課 課長 正林 督章 以下 正林)
―100円で朝食を出すきっかけや経緯を教えていただけますか?
(立命館大学 スポーツ健康科学部 教授 田畑泉氏 以下 田畑氏)立命館大学は全国47都道府県すべてから学生が集まっている関西では珍しい大学です。父母教育後援会も、各都道府県から2名ずつ委員さんが選出されており、年に2回、全国の父母委員さんが集まり、学生支援について話し合う場を設けています。そこで、下宿で一人暮らしをさせている学生の健康管理や生活リズムを崩させないための取組が課題に挙げられました。これを受けて、近畿の父母委員で構成される常任委員会で地方の親御さんの要望や意見をどう実現していくかを話し合い、“100円で朝食出してみたらどうか”というアイデアが出され、効果を確かめるため、2週間のテスト実施をすることになりました。
(正林)学生の健康を支援する上で朝食に目をつけたのですか?
(立命館大学 父母教育後援会 副会長 竹内福代氏 以下 竹内氏)先ほども申し上げた通り、立命館大学は全国から学生が集まっているため、下宿生が学生の半数以上を占めています。このため親御さんは、「子どもがきちんと食べているのか、栄養があるものを食べているのか心配だ」という意見が、どの地方からも出ていました。子どもがいずれ社会に出て独立、自立していくことを考えると、まず朝の時間に早く起きて、朝食をしっかりと食べることで一日の体力の調整をすることが重要だということで、朝食に目をつけました。
ただ、始めた当初はこれだけ学生が反応するとは思っていませんでした(笑)「100円にしたくらいで子どもが朝起きて出てくるのかな?」と言っていたのですが、中学、高校でクラブを一生懸命してきた子が多かったせいでしょうか、親御さんがお弁当を作られたりして、子どもの健康を今まで気づかってこられた、そんな親を持つ学生たちが、親の本当の思い、自分たちの将来の健康を考えてくれているんだということに気が付いてくれたように思います。立命館大学には、オリターといって学生が新入生をサポートするシステムがあります。そのオリターの学生たちが、新入生たちに、『100円朝食』を体験させたいので支援をしてくださいと言ってきてくれたのです。そのときに、子どもたちの健康、また自分自身で健康を管理するための食のリズムを身に付けてほしいという親の思いを、子どもたちが分かってくれたと感じました。
(正林)『100円朝食』はどのキャンパスでも実施されているのですか?
(竹内氏)はい。もともと生協さんが朝定食を提供されていて、8時から8時40分の間だけ100円を超える部分を父母会が負担するということで『100円朝食』を始めたため、どのキャンパスでも生協さんによる『100円朝食』を実施しています。
(立命館大学 スポーツ健康科学部 教授 海老久美子氏 以下 海老氏)その中でも、ここ、びわこ・草津キャンパスでは、生協食堂として3種類のおかずを選んでいく形で展開しています。その他、JAおうみ冨士さんがキッチンカーで提供する地元野菜を中心としたメニューや、学内にあるサンドイッチ屋さんのSUBWAYさんも『100円朝食』を出してくれています。
(正林)『100円朝食』を始めてから苦労されたことなどありますか?
また保護者の方からはどのような意見がありましたか?
(竹内氏)『100円朝食』についてマスコミでもずいぶん紹介していただいたので、父母の方たちも父母会の取組に興味を持ち、理解を示してくださるようになりました。最初は父母会の活動をよく知らなかったけれども、こういう取組ならぜひ支援したいというご意見をたくさんいただきました。
(田畑氏)親御さんの中には、昼ごはんも100円にしてくれという方もいるのですが、この取組は「朝大学に来てご飯をたべよう」というメッセージであって、経済支援ではないと考えています。その辺は、父母会がはっきりポリシーを立てているので、ぶれずに実施できていると思います。当初は自宅生の親御さんからの批判も少し懸念していたのですが、「うちの子は食べていないけれども、この取組は素晴らしいので続けてくれ」と言う意見もたくさんいただきました。やはりこれは親目線の取組であり、同じ思いで見てくださっているのかなと思っています。
(正林)なるほど。ではあまり苦労はせず、非常に上手くいったということでしょうか?
(田畑氏)利用者数については、非常にスムーズ増加して、今、年間のべ16万人が利用しています。ただ事務局として、やはり予算のやり繰りには苦労しました。最初に『100円朝食』を始めるときに、父母会では「授業に間に合うよう8時から8時40分までという時間制限は設けるが、その時間までに来た学生には全員食べさせよう」という方針を立てていたので、予算がどれぐらいかかるか分かりませんでした。その額も、今ではうなぎ上りで増えていて、恐らく今年は予算を超えるのではないでしょうか(笑)
(川端氏) JAとしては、地産地消の推進と、学生の農業に対する理解を深めるという思いで、父母教育後援会と協定を結び組織として取り組んでいます。ただ、朝食の提供時間に間に合わせるためには、朝5時から調理を始め、キッチンカーでキャンパスまで運んでこないといけないので、調理スタッフの確保やシフト変更が大変でした。
(正林)『100円朝食』を実施するための特別な費用を親から徴収しているのですか?
(竹内氏)いえ、父母会に入会しておられる方から年会費を徴収しているのですが、そのなかから捻出しています。初年度は父母向けに配っていた手帳の制作を止めて、浮いた1500万円で始めました。しかし2年目で底をついてしまったので、父母向けのサービスをだいぶカットして『100円朝食』の実施に充てています。それでも保護者からは学生のために使ってくれという指示を受けています。
(正林)この取組を始めた意義や、やって良かったことはありますか?
(竹内氏)思いがけないことですが、当初、利用者は圧倒的に下宿生だと思っていました。ですが、ちょっと離れたところから通学している学生たちがラッシュアワーを避けて、早い時間に学校に来て朝食が始まる時間までを勉強に充てたり、課題の取り組みをしたりしていることです。今では約3割の利用者が自宅生です。
また、早朝の図書館の利用者数が3万人以上増えています。1限目に授業がない学生も『100円朝食』を食べて、図書館でレポートや課題をしたりしています。
(海老氏)それから、朝活の1つとしても使っているようですね。SNSなどで「じゃあ何時に朝食とりながらミーティングね。」というように女の子の利用が結構増えたようです。また、スポーツ健康科学部では『100円朝食』が始まる前からクラスごとに食堂に来て、朝ご飯を食べることからスポーツ栄養学を始めようというクラスごとで学部長と一緒に食べる会を、1年生の基礎演習の授業で取り入れてきました。『100円朝食』ができてからは、どれをどう選べば『100円朝食』さらに栄養的にコストパフォーマンスを高められるかを考える形にしています。それぞれの学部ごとのニーズに合わせて、いろいろな方法でこの取組を利用していると思います。
(田畑氏)100円、10分でできるレシピを自分たちで考えるレシピコンテストもありましたね。
(海老氏)レシピコンテストは、料理を作っている様子を撮影するとともに、どんなメニューができるかを思いとともに伝えてもらった後で試食をし、協賛いただいた企業の方から賞をいただくという内容でした。するとコンテストのなかで、親に対する思いや、朝食に対するさまざまな思いが出て来て、なぜこの材料を使ったのか、どうしてこのレシピにしたのか、私たちが思っている以上に深く考えていることを知りました。学生自身も、それがきっかけで気付いたことがあったかもしれません。なかなか面白い取り組みでした。スポンサーを探してくれないか、会場を貸してくれないか等、全て学生が企画をし、学生側から『100円朝食』に対して、自分たちから何かメッセージを送りたいという思いでやり始めました。
(竹内氏)企業さんが企画に賛同して賞品を提供してくれたので、企画した学生たちにとってもいい勉強になったと思います。レシピが大人の発想ではなくて、こう組み合わせるのかと思うものがおいしかったりして意外でしたね。やはり47都道府県から来ているので、組み合わせがちょっと意外であったり、その地方でよく採れるものを使っていたり地方色がよくでていました。これのレシピ本ができたらとても面白いと思います。
(正林)では次から次へと副次的な効果があったのですね。
(竹内氏)はい。ですから『100円朝食』をなんとか続けていくべく、先日行われた父母会の会議で早速予算の見直しをし、財源確保に向けて話し合いました。この取組は、期間限定では全く意味がないものですし、学生たちを自分で健康管理ができる人間として社会に送りたいというのが親の思いです。
(海老氏)朝食が1つのきっかけになって自分自身の食と自分の生活を見直すきっかけになれば、それはすごくいいことだと思っています。農家さんがいて、作ったものが運ばれてきて、それをまた食堂のおばちゃんが提供してくれて、そういった人のつながりによって食材が食べ物となって学生に提供される。それが今後さらに細かく具体的に分かってくるようになると、食べることに関してもっと深い理解を持って4年間過ごしてくれるのかなと思っています。
(田畑氏)最初は親の思いから始まって、今では学生自身の意識が高まってきたというのが1つ効果としてあると思っています。今の大学生は食育をあまり受けていない世代ですので、100円朝食で派生したレシピコンテスト等の取組のなかで、スーパーで野菜をどのぐらいの値段で売っているか初めて知ったなどの声も聞くようになりました。
(正林)それでは最後に今後の展望などがあれば教えていただけますか?
(海老氏)ひそかな私の野望としては、野菜をよく食べる学生を養成していきたいと思っています。国民健康栄養調査の結果を見ていても、20代の野菜の食べる量はとても少ないことが分かります。こういう企画がないと野菜を食べていなかったことにも気付かない学生も多いのが現状です。それだったら、少なくても日本のなかでは立命館大学に来れば、野菜を食べられるよ、というような環境を作ることができればとても面白いと思います。
(川端氏) われわれの次のねらいとしては、学生の出身地である47都道府県それぞれに食文化があるので、その地域の食材を手に入れてその料理方法を教えてもらい、100円朝食のメニューにしていきたいと思っています。もちろんそう簡単ではないですけどね。
(田畑氏)『100円朝食』が非常に広まって16万人が利用していると言いましたけれども、やはり3万3,000人いる学生すべてを100円朝食でカバーするのは無理だと思っています。ですから、次は自炊に目を向けていきたいなと思っています。その意味でもJAさんと何かできないかと思っています。学生が下宿で自炊しているかどうか調査してみたら、コンビニで都度買いをしている子が多く、電子レンジも冷蔵庫も持っていないのです。そのインフラからどう立て直していくかが課題ですね。
(正林)なるほど。今日は貴重なお話をありがとうございました。
また、実際にお出しされている料理もいただき、とてもおいしかったので、学生さんに人気があるのもうなずけました。元々の目的は、学生の皆さんが朝学校に来てご飯をたべてもらうということでしたが、様々な副次的な効果が出てきていて本当に素晴らしい取組だと感じました。その中でも特に印象に残ったのは、この取組全体から感じる“暖かさ”を強く感じたことです。学生さんに対する思いや、地域とのコミュニケーション、そして今日お話しいただいた皆様の人の和をとても感じることができました。
我々、厚生労働省では健康づくりを奨励していて、「健康寿命をのばそう!アワード」でも模範となるような取組を表彰して、世の中に広めていくという事を行っており、今回のインタビューも含めて、この取組をさらに紹介していきたいと思っていますので、是非、皆様もさらにこの取組について情報発信いただいて、『100円朝食』の取組がもっともっと広がるようにご尽力いただければと思います。
(正林)今日は素晴らしいお話をありがとうございました。
(一同)ありがとうございました。
※記事中の部署・役職名は取材当時のものです。