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「第6回 健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 優秀賞 自治体部門 受賞めざせ、健康寿命日本一おおいた
~多様な主体との協働による県民運動の展開~
大分県
健康寿命に関する平成22年の調査結果を見て、大分県は、平均寿命と健康寿命の差の大きさに衝撃を受けました。
その時に感じた「県民の健康寿命を何としてでも伸ばさなければならない」という思いをバネに、
それまでとは異なる健康づくりの取組を模索し始めます。
そして、従来の健康分野の枠を超えた幅広い連携・協働の関係を構築することで、
県民あげての健康づくりの取組を軌道に乗せ、
「第6回 健康寿命をのばそう! アワード」厚生労働大臣賞 優秀賞 自治体部門を受賞しました。
今回は、この取組について、大分県福祉保健部健康づくり支援課の後藤芳子氏(地域保健推進監)と、
吉田知可氏(主幹)にお話を伺いました。
――大分県は、「健康寿命日本一の実現」を目標に掲げ、様々な施策を展開しています。その背景には、どのような問題意識があるのでしょうか。
後藤芳子氏(以下、後藤氏):昭和40年から60年頃の大分県の平均寿命は全国30位前後で推移していましたが、平成7年以降は徐々に順位を上げ、平成22年には男性が8位、女性が9位と、長寿県トップ10入りを果たしました。ところが、その年の健康寿命は、男性が39位、女性が34位。平均寿命と健康寿命の差を見ると、男性が10.21年でワースト1位、女性が13.72年でワースト3位でした。こうした結果に強い危機感を持ち、県民総ぐるみで健康づくりに取り組む必要があると考えました。
そして、平成27年に策定された県の新しい長期総合計画『安心・活力・発展プラン2015』の中に、「健康寿命日本一の実現」を目標に、「県民参加型の健康づくり運動を展開」することを盛り込みました。かなり高い目標ですが、県民一人ひとりが自発的に健康づくりに取り組むという気運を盛り上げるために、あえて「目指せ!健康寿命日本一おおいた」をスローガンにして、県をあげての健康づくり事業をスタートさせることにしたのです。
――健康寿命を伸ばしていく上で、重視している課題は何でしょうか。
後藤氏:平成22年の健康寿命を分析すると、大分県には50歳と75歳に壁があることが分かりました。50歳を過ぎると日常生活に支障をきたす人が急増していることから、20~40歳代の若い世代からの健康づくりが課題と考えています。また、75歳での急増に対しては、地域包括ケアシステムの推進や介護予防をさらに進めることが必要です。
さらに、平成28年に行った「県民健康意識行動調査」から、①食塩摂取量が多い、②野菜・果物の摂取量が少ない、③運動習慣のある人が少ない、という3つの課題が浮き彫りになりました。その中でも、男性は若い世代ほど食塩摂取量が多い、野菜・果物摂取量では20歳代の女性が最少、運動習慣では40歳代の男性と30歳代の女性が最低など、若い世代や働き盛りの世代に生活習慣上の課題が多くあるということが確認できました。
こうした実情を踏まえ、健康づくりの3要素である①栄養・食生活、②運動・身体活動、③休養・心の健康、それぞれの領域で取組を進め、健康寿命の延伸を目指すという方針を立てました。栄養・食生活では「減塩マイナス3g、野菜摂取350g」、運動・身体活動では「プラス1500歩」という具体的な数値をスローガンに掲げ、メタボリックシンドロームや生活習慣病の対策を展開しています。さらに、休養・心の健康の面では、職場におけるメンタルヘルスの推進のほか、「日本一のおんせん県」でもある大分県の特色を生かし温泉を活用した施策を展開するなど、主観的な健康度の改善にも力を入れています。
――「第6回健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 優秀賞 自治体部門の受賞につながった大分県の「多様な主体との協働」は、どのように形作られていったのでしょうか。
後藤氏:平成28年6月に、経済団体をはじめとする県内の主要な39団体と県とで構成する「健康寿命日本一おおいた創造会議」(以下、創造会議)を立ち上げました。県の施策に関してご意見をいただいたり、協議を行ったりする通常の会議体とは異なり、この創造会議では、まず各団体において「健康要素」を加味した取組を実践していただき、その実践内容を持ち寄って発表してもらうことをベースに運営しています。
また、創造会議には「健康寿命日本一おうえん企業」(後述)に登録している企業・団体もオブザーバー参加しており、毎回、100人を超えるオブザーバー参加者がいます。多様な業種・業界の大企業・地元企業の方や、市町村の保健師など健康保健分野の最前線で働く人など、様々な方が集まるため、取組事例の情報が共有・拡散されるだけでなく、企業と各種団体、団体同士のマッチングの場にもなっています。その意味で、創造会議は、新たな健康づくりを創出するプラットフォームとして非常に有効に機能していると考えています。
吉田知可氏(以下、吉田氏):これまで、県の健康づくりの施策は、保健医療関係の団体と協議・連携する形で進めてきました。しかし、地域社会を動かし、県民総ぐるみの取組にしていくには、県民の生活に密接に関わっている企業や団体との連携・協働が欠かせません。健康づくり支援課の職員が各団体・企業に出向き、創造会議の趣旨を説明して参加を呼びかけました。
高齢化の進展とともに労働者の平均年齢も上昇している中、「従業員の健康管理が重要だ」との認識は広まっていたため、各団体・企業とも積極的に参加してくださいましたし、「健康寿命日本一を目指す」という目標にも共感していただき、スムーズに創造会議を立ち上げることができました。
――「健康寿命日本一おうえん企業」について、ご説明いただけますか。
後藤氏:「健康寿命日本一おうえん企業」(以下、おうえん企業)とは、「おおいた県民の、うんどう(運動習慣)・えいよう(栄養バランス)・かんきょう(社会環境)の改善を応援する企業・団体」のことで、平成28年6月に、創造会議の設立と同時に登録制度をスタートさせ、令和3年1月現在の登録数は101件に上ります。
おうえん企業の募集にあたっては、「共通価値の創造」(Creating Shared Value:以下CSV)の考え方に基づいて、企業もwin、県民もwinとなるような協働を呼びかけました。CSVとは、企業が地域社会と共通の価値を創造することで、企業価値による経済的価値と社会的価値を同時に実現するというものです。おうえん企業に登録することで、健康づくりに貢献しているという企業イメージの向上だけでなく、新しい商品開発やビジネスモデルの創造につなげていくねらいもあります。
吉田氏:おうえん企業には、健康づくりを支援する物資や場所、人材、スキルなどをご提供いただいているほか、各社の事業の中で「健康」を切り口にした取組を考え、実践していただいています。例えば、ある金融機関は健診を受診すると金利が上乗せされる定期預金を商品化して健診受診率向上に向けた広報をしたり、あるスーパーでは減塩商品の専用コーナーを設置したりと、様々なアイデアで取り組んでいただいています。登録企業からは「おうえん企業に参画したことで、健康という軸で商品の価値を伝えられるようになった」「保健所や健診機関、金融機関など、多くの関係者との接点が生まれた」などの声が寄せられています。
後藤氏:おうえん企業の登録数が増え、各企業の活動が活発になっていくことは県民の健康寿命の延伸につながるため、win-winの関係を築く制度になっているといえます。
そして、毎年10月を「みんなで伸ばそう健康寿命推進月間」とし、創造会議の参加団体とおうえん企業が中心となって様々な健康づくりイベントを開催しています。初年度である平成28年の健康づくりイベント参加者は8万3,505人でしたが、年々、イベント数も参加者数も増え、令和元年の参加者は16万4,814人で、県民の約7人に1人が健康づくりイベントに参加するまでに広がりを見せています。
このように、創造会議とおうえん企業が、大分県の「多様な主体との協働」を支える2本の柱であり、健康づくりを「オール県庁」を超えた「オール県民」の取組にしていく推進力になっていると思います。
――「栄養・食生活」の面では、どのような施策を実施しているのでしょうか。
後藤氏:健康的な食環境を整備することを目的に、平成26年度から、「旨味を持つ食材を、上手く活用した、塩分控えめの美味い食事」の普及を進める「うま塩プロジェクト推進事業」を展開しています。産官学の連携の下、うま塩メニューを開発し、レシピ集としてまとめたり、学校給食に導入したりするなど取り組んでいます。
そして、新たに強化しているのが「うま塩メニュー提供店」の開拓です。食塩相当量3g未満の食事を提供する外食・中食の事業者を「うま塩メニュー提供店」として登録し、うま塩メニューのさらなる定着・拡大を図っています。登録店舗は着実に増えていて、令和3年2月現在176店舗に達し、県内18の市町村すべてにうま塩メニュー提供店ができています。
――創造会議の立ち上げ前に、産官学が連携した事業がスタートしていたのですね。
後藤氏:本事業では、メニューの開発にカゴメ株式会社やキユーピー株式会社といった大手企業も加わってくださいました。CSVの理念に基づいて、健康という価値を民間企業と共有して展開できたおそらく初めてのケースだったと思います。両社の製品を使ってアレンジした郷土料理の減塩レシピなどを提案していただき、しかも、それがおいしいので驚きました。民間企業と連携することでこれまでになかったアイデアが生まれ、事業全体が非常に活性化しました。この“成功体験”があったから、健康寿命日本一を目指す健康づくりにおいても民間企業の活力をうまく取り込んでいく必要があるということになり、おうえん企業登録制度という施策につながったといえます。
――民間企業との連携で、その後、食環境を整備する取組も発展していったのでしょうか。
後藤氏:生産・流通・販売の関係者と連携し、平成30年度から、新しく「まず野菜、もっと野菜プロジェクト事業」をスタートさせています。特に若い世代の野菜摂取量の増加を目指し、スーパー90店舗、コンビニ467店舗との協働による一斉キャンペーンの展開や、若い女性をターゲットとして思わず野菜が食べたくなるような仕掛けのプロモーション動画を作成し、レシピサイトやSNSで配信するといった取組を進めています。
さらに、令和2年度は、うま塩プロジェクト推進事業とまず野菜、もっと野菜プロジェクト事業を一体的に進めようと、「うま塩もっと野菜推進部会」を、創造会議の専門部会として立ち上げました。食品関連企業とスーパーの協働による「うま塩で野菜たっぷり」な商品開発・販売促進、購入したくなるような啓発の取組などを進めているところです。
――「運動・身体活動」の面では、どのような施策を実施しているのでしょうか。
後藤氏:運動習慣のない無関心層を惹きつけるには、楽しく、自然に続けられる健康づくりが大事だと考え、ICTを活用した取組を展開しています。「おおいた歩得」(以下、「あるとっく」)という名称の健康アプリを県で開発し、平成30年4月から本格運用を始めています。
「あるとっく」は、歩いてポイントを貯め、ポイントが貯まると様々なサービスが受けられるという基本の仕組みに加え、次のような特色ある機能もあります。一つは、グループ参加が可能で、グループのランキングを見ることができます。県では、この機能を活用した職場対抗戦を開催していて、令和2年度の職場対抗戦には362グループ、3,157人が参加しました。二つ目に、一定期間内に健診や健康イベント参加などのミッションをクリアすることで、ポイントや賞品がもらえるようにしています。令和元年度には、338件のミッションが設定され、のべ4万2,943人が参加しました。三つ目に、歩いた歩数だけでなく、入力した血圧や体重などの健康情報もグラフ化してくれるので、日々の健康管理に役立てられるようになっています。
さらに、「あるとっく」の普及と、より多く歩いてもらうための仕掛けとして、平成31年に「温泉スタンプラリー」を、令和元年には「うま塩もっと野菜スタンプラリー」を追加しました。
令和3年1月末現在のダウンロード数は5万4,147件で、前年同月比の伸び率は80%に達しています。
――「あるとっく」は、県内の市町村でも活用されているようですね。
後藤氏:はい。県内の各市町村と連携し、それぞれの自治体で「あるとっく」を活用した独自の健康づくり事業を推進しているところです。現在、7つの市町で、各自治体が行っている「健康マイレージ」の中に何らかの形で「あるとっく」が組み込まれています。
こうした普及・活用の広がりとともに、「あるとっく」利用者の平均歩数も伸びていて、平成30年度と令和元年度との比較では、県全体、男女別のいずれも歩数が増加し、市町村別に見ても18市町村のうち15市町で歩数が増加しています。
――働く世代の健康づくりとしては、どのような取組を行っているのでしょうか。
後藤氏:全国健康保険協会大分支部(以下、協会けんぽ)と連携し、平成26年から、大分県独自の「健康経営事業所登録・認定制度」をスタートさせました。事業所の健康経営を推進し、職場が健康づくりに取り組む中で、従業員に自然と健康的な生活習慣を身に付けてもらおうというねらいです。
この認定制度は、まず事業所が登録を行い、県が定める5項目の認定基準の達成を目指した取組を実践して、5項目すべて達成すると「健康経営認定事業所」として認定されるというものです。認定基準は、「健診および有所見者への対応」「事業主による主導的な健康づくりの推進」「受動喫煙防止対策」などで、1年ごとに認定が行われます。健康経営認定事業所の認定を受けると、県のホームページなどに事業所名が登録されるほか、「地域産業振興資金」の融資対象者になることができます。特に優良な5つの事業所には、知事顕彰が行われます。令和元年1月現在で、1,915事業所が登録を行い、そのうち491事業所が健康経営認定事業所に認定されています。
こうした仕組みの中で、県は、保健所の保健師による未登録の事業所への登録に向けた支援と、登録済みの事業所への認定に向けた支援を行っています。具体的には、地域の商工会議所に出向いて取組の連携をお願いした上で、役員が出席する会合で健康経営についてのお話をさせていただき登録を勧めたり、登録した事業所を協会けんぽと共に訪問してアドバイスをしたりしています。また、管内の事業所の情報共有や啓発を目的としたセミナーを開催し、よい取組の横展開につなげる活動をしています。
――事業所の健康経営を推進していく上で、どのような課題があるのでしょうか。
後藤氏:認定を受けている事業所からは、「継続していくことが難しい」との声が上がっています。一方、認定に至っていない事業所からは、「管理者の意識改革がないと、なかなか進めていけない」「具体的に何をすれば良いのかが分からない」といった声が多く寄せられています。
こうした実情を踏まえ、職場環境をアセスメントして事業所ぐるみの健康増進に向けたアドバイスができる人材を増やし、事業所支援を強化する必要があると考え、令和2年度から「心と体の職場環境改善アドバイザー」の養成を始めました。理学療法士・作業療法士・公認心理師の方々に職場での支援について学んでいただき、それぞれの専門職としての能力と職場環境を改善するスキルを併せ持つアドバイザーとして、事業所における課題解決に当たってもらうことを考えています。大分県理学療法士協会、大分県作業療法協会、大分県公認心理師協会の3つの職能団体と連携して参加者を募集し、現在、46人が研修を受けています。令和3年度から小規模の事業所への派遣を始める予定です。
――健康づくりの取組における「県」が果たすべき役割については、どのようにお考えでしょうか。
後藤氏:県民一人ひとりに対するアプローチという面では市町村の役割が重要になると思うのですが、健康を支える社会環境の整備は、県の役割が大きいと捉えています。
ただ、県が旗振り役をやるにしても、実際の取組において、地域で動くときは市町村と密接に連携していくことが大切です。例えば「うま塩提供店」の開拓は、県の保健所の栄養士と市町村の栄養士が一緒に店舗を回ります。健康経営についても、県の保健所の保健師と市町村の保健師が一緒に事業所を訪問します。
働く世代の健康づくりは市町村にとって大きな課題ですが、直接的なアプローチは難しい状況でした。そこに、県が、健康経営という切り口で事業所に介入し、協会けんぽと共に働く人々の健康増進を支援するしくみを創り、それに市町村も加わることで、相互の役割発揮につながっています。このような“重層的な関わり”を形成することで、厚みのある支援が行えているのかなと思います。
吉田氏:県民、企業・団体、市町村などから何が求められているのか、「県」が担うべき役割は何かということを、常に考えながら取組を進めています。
先ほど後藤が「県は旗振り役だ」と申し上げましたが、連携・協働する市町村や企業・団体の皆さんに一緒に歩んでもらわなければ意味がありません。「ちょっとそこまではついていけない」という人がいても、その人たちを決して置き去りにせず、できれば巻き込んで、一緒にやっていく。ですから、旗を振って先頭を歩くと同時に、できるだけ広い視野で全体を見渡しながら、どう工夫すれば共に取り組めるようになるのか考え続けることも大事な役割ではないでしょうか。
※記事中の部署・役職名は取材当時のものです。