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第4回健康寿命をのばそう!アワード 厚生労働大臣 優秀賞受賞『ヘルスケア通信簿R』が突破口になった地元企業の健康づくり
ヘルスケア通信簿で「今」を知り、「未来」を創れば健康経営危うからず
~コラボヘルスで目指せ長寿企業~
全国健康保険協会 広島支部
「意識があっても具体的な取り組みが進まない」「注力すべき課題がわからない」といった悩みを伴いやすい中小企業の健康づくり。全国健康保険協会 広島支部(協会けんぽ広島支部)は、地域の事業所が少しでも積極的に取り組めるように、各社の健康課題を“見える化”した『ヘルスケア通信簿R』を導入し、2015(平成27)年開催の「第4回健康寿命をのばそう!アワード」において、厚生労働大臣 優秀賞を受賞しました。事業所に送付される『ヘルスケア通信簿R』には、従業員の健康データだけでなく、経年変化や他社と比べた順位が記載されるなど、さまざまな工夫が施されています。事業への取組や効果について、全国健康保険協会 広島支部(協会けんぽ 広島支部)企画総務グループの尾田慎一さんにお話を伺いました。
(画像・資料はすべて全国健康保険協会 広島支部による提供)
――『ヘルスケア通信簿R』を導入したきっかけを教えてください。
尾田慎一さん(以下、尾田さん):私たち全国健康保険協会(協会けんぽ)は、加入事業所に対して、電話や訪問することで担当者の皆さまに健康づくりに関する事業説明を行っています。しかし、前向きな姿勢で取り組んでいただくためには、今ひとつ“押し”が足りないという課題意識を長年抱いていました。とはいえ、広島支部は約5万6,000の事業所を抱えており、対応できる人員が不足しています。職員が万遍なく事業所に足を運ぶことは現実的に難しい。そこで考えたのが、配布物の内容を工夫することでした。自社の従業員の健診データ・医療費データに客観的な分析や考察を加えることで、興味を持ってもらおうと始めたのが『ヘルスケア通信簿R』です。2014年度に導入し、現在まで毎年発行しています。
――『ヘルスケア通信簿R』の内容について、詳しく教えてください。
尾田さん:『ヘルスケア通信簿R』には、事業所の医療費、健診結果に基づいた高血圧・糖尿病・高脂血症リスク、喫煙率、生活習慣の状況などを記載しています。これを3年間の経年比較で示し、改善・悪化状況を可視化。さらに地域全体、同じ業種における順位も提示することで、自社の位置づけの確認や危機意識を抱いてもらえるようにしています。また、広島支部や同業種の平均、詳細の項目はグラフで表示し、事業所ごとの特徴や健康課題が一目でわかるようになっています。どのような項目をどのように見せるかは、開発当時から試行錯誤を重ねてきましたが、「通信簿」のように“自分事化”“見える化”できる一冊を目指してきました。
記載する内容は毎年更新しており、現在は従業員(被保険者)の健診受診率、家族(被扶養者)の特定健診受診率、特定保健指導の対象者の割合、特定保健指導の実施率、ジェネリック医薬品の使用割合についても、経年変化で確認できるようにしています。2021年度版では、運動習慣、食事習慣、飲酒、睡眠といった生活習慣の状況も、問診票の結果をもとに経年比較できるようにしました。
――『ヘルスケア通信簿R』を導入したことで、どのような効果が現れましたか?
尾田さん:導入当時、『ヘルスケア通信簿R』を100社に持参して健康づくりの提案を行ったところ、98社で述べ278の健康づくり事業に取り組んでいただきました。実施内容は、生活習慣病予防健診受診率の向上、特定保健指導実施率の向上、各種健康づくり講座、高血圧などの重症化予防、労災保険二次健康診断受診推奨、COPD予防(禁煙指導)、ジェネリック医薬品推進、メンタルヘルス対策と、多岐にわたります。各事業所には、数値が低い領域に対する事業を提案しているので、「取り組むべき課題が明確になった」といった評価も多数寄せられており、訪問先のアンケート結果からも「従業員の健康に対してより意識するようになった」という回答が77.2%に達しました。
現在は『ヘルスケア通信簿R』に、各項目の予防方法や対策プランを記載したパンフレットも同封し、現状把握だけでなく対策もしやすいようにしています。また、従業員のご家族の健診受診率が低いという課題も見えてきたので、事業所を通じてお声がけをしていただくといった対策を進めてきました。
――導入後から現在まで、取組をどのように発展させていったのか教えてください。
尾田さん:2015年度には、従業員30名以上の事業所を対象に、約3,000社に送付。ツールとしての訴求効果が得られたことから、2016年度は、従業員10名以上の約10,000社を対象にしました。個人情報保護の観点から、現在も対象は従業員10名以上としていますが、さらに小さな事業所にも健康づくりに取り組んでいただくために、どのようなアプローチをすべきか模索しているところです。
――より積極的な健康づくりのため、『ヘルスケア通信簿R』以外に取り組んでいることがあれば、教えてください。
尾田さん:各事業所における健康づくりの好事例を紹介するパンフレットを送付し、自社のニーズに見合った取組を発見できるようにしています。知り合いの事業所が掲載されていると「ウチもやらなきゃ!」と、動機付けにもなっているようです。
また、2016年度には健康経営の普及促進に向けた事業として「ひろしま企業健康宣言」制度を創設しました。エントリーをすると「ひろしま企業健康宣言証」が交付され、健康づくりに関する季刊誌の配布や健康づくり講座の無料受講などのメリットがあります。エントリー事業所数は年々増加しており、初年度の280社から、2022年3月現在3,000社に拡大しています。職員全員によるエントリーへの電話勧奨などで周知活動を行ってきましたが、特に効果があったのは『ヘルスケア通信簿R』に「ひろしま企業健康宣言」の案内パンフレットを同封したときで、2カ月で約400事業所からのエントリーがありました。広島支部のエントリー数は、他支部と比べても高い数値といえます。
さらに2020年度からは広島県と連携し、積極的・継続的に健康経営に取り組んでいる事業所を対象とした「広島県健康経営優良企業表彰」を始めました。毎年、3社程度、広島県知事から表彰を受けられますので、非常に名誉があることです。企業が経営の優先課題として健康づくりを推進することは、従業員の健康増進だけでなく、生産性向上やイメージアップにつながります。少子高齢化における人材確保の観点からも、近年はますます健康経営が重視されるようになってきたのではないでしょうか。優れた事業が広まることで、地域全体の健康づくりにもつながっていくことを期待しています。
――新型コロナウイルス感染症の影響など、近年課題に感じたことはありますか?
尾田さん:コロナ流行の影響で健康診断の受診控えが見られ、早期発見による医療機関への受診が遅延することを懸念しています。そもそも『ヘルスケア通信簿R』は健診結果のデータを反映しているため、受診率が低下すると自社の状況が正確に見えてこないことも課題です。
また、精神疾患による休業の増加も顕著になっており、従業員のメンタルヘルス対策が重要化しています。しかし、メンタルヘルスはプライバシーにも関わるため、「『ヘルスケア通信簿R』の中でどのように訴求していくかは、今後の課題となるでしょう。セミナーの実施などによる対策を進めていきたいですね。
一方、悪いことばかりではなく、オンラインでの事業所への健康づくり提案など、新しい方策を発見することができました。今後はデジタルツールも活用し、マンパワー不足を補っていきたいと考えています。
――最後に、保健事業や健康経営に取り組んでいる担当者へ、メッセージをお願いいたします。
尾田さん:保健事業や健康づくりは、導入してから効果が現れるのに時間がかかります。「本当にこのやり方が正しいのか」と、疑問を抱くこともあるでしょう。これをやれば完璧という正解はありませんが、一つひとつ着実に取り組んでいくことが、一番の近道だと思います。私たち協会けんぽ広島支部は、「健康づくりの好循環」の定着・拡大に向けて取り組んでいます。事業所内ひいては、地域における「健康づくりの好循環」が生まれるように、全力で事業所をサポートできる体制を構築していきます。そして、有効な取組事例が全国に少しでも広がれば、これほどうれしいことはありません。
※記事中の部署・役職名は取材当時のものです。