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「第1回健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 優秀賞 受賞20年の積み重ねで実現した、グループ横断の健康経営
三菱電機株式会社
1970年代からコラボヘルスを推進し、2002年以降は健康推進事業「MHP21」を継続してきた三菱電機株式会社。グループを横断した取組により、2012(平成24)年度開催の「第1回健康寿命をのばそう!アワード」において厚生労働大臣 優秀賞を受賞しました。「健康経営」という言葉すらなかった時代から従業員の健康づくりを進めてきた同社は、これまでの取組を次にどうつなげていくのでしょうか。人事部 安全健康グループの吉田浩二さん、杉原俊彦さん、三菱電機健康保険組合の大森義文さん、菊池崇徳さんの4氏にお話を伺いました。
(画像・資料はすべて三菱電機株式会社による提供)
――従業員の健康づくりに取り組み始めた経緯を教えてください。
吉田浩二さん(以下、吉田さん):健康経営の原形となる取組が始まったのは1974年、健康づくり分野に関する専任のトレーナーを配置したことに遡ります。1977年には、健康づくりを従業員の福祉向上と位置づけ、労使による検討の上で体系的・具体的に施策を推進する「福祉ビジョン」を策定しました。1984年には「体力づくり施策検討委員会」を設置し、プライベートも含めた健康・体力づくりを進める体制を構築し、会社・労働組合・健康保険組合の共催で健康増進キャンペーンや体力づくり教室など実施しました。今で言うところの「コラボヘルス」がスタートしたわけですが、当時としては先駆的だったと思います。
その後、国の指針に基づく形で職場における心と体の健康づくりを推進しながら、2000年に厚生労働省の「健康日本21」がスタートしたことを受け、当社もこれまでの取組を「三菱電機グループヘルスプラン21(以下、MHP21)」として整理しました。MHP21は会社・労働組合・健康保険組合の三者協働事業として、2002年から現在に至るまで継続しています。
――MHP21の概要を教えてください。
杉原俊彦さん(以下、杉原さん):「生活習慣 変えてのばそう 健康寿命」のメインスローガンの下、グループ従業員とその家族の一人ひとりが食事、運動、休養、嗜好といった観点から生活習慣を主体的に見直し、QOL(Quality of Lifeの略称で「生活の質」「人生の質」などの意)の向上と健康企業の実現のための行動を、職場から起こしていこうとする取組です。「適正体重」「運動習慣」「喫煙」「歯の手入れ」「睡眠」の各重点項目に目標数値を設定し、グループ全体で実施する健康大会を皮切りに、健康調査やキャンペーン、情報発信、健康グッズの配布などによって目標達成を目指しています。あと、現役の従業員だけでなく、OB・OGの方も対象にしていることも、特徴の一つかもしれません。
――MHP21のこれまでの活動内容を教えてください。
杉原さん:「ステージⅠ(2002~2011年度)」「ステージⅡ(2012~2016年度)」「ステージⅢ(2017?2021年度)」と3つのステージで展開し、年に1回実施している健康調査の結果などをもとにPDCAサイクルを回すことで、取組の見直し・改善を図ってきました。
ステージⅠからステージⅡへの移行期は、CSRにおける取組として重要度を上げた活動を展開した。当時、社会的な課題ともなっていたメンタルヘルス関連疾患の増加への対策へ注力するとともに、施策を10年続けたことによるマンネリ化からの脱却が主なテーマでした。ステージⅡからⅢへの移行期は、当時「ストレスレベル」として設定していた目標を、ストレスチェック法制化に伴うメンタルヘルス対策の取り組みが強化されていることから、ストレスとの関連性が高く従業員が自分ごととして取り組めるよう「睡眠」に変更しました。
活動面では、現在、目標達成に向けたトップリードの活動推進、若年層や健康づくり不活性層の底上げに向けた個別アプローチ、事業所ごとの重点項目の設定などを強化しています。特に、適正体重維持は、MHP21がスタートしてから良化の兆しが見えなかったことから、若年層に向けた個別アプローチに重点的に取り組んでいます。
なお、ステージⅢからは新鮮な気持ちで取り組めるようにサブスローガンも設定しており、「みんなで灯そう やる気の火 成果(聖火)につなぐ この一歩」「かしこく食べて、しっかり動いて、ココロもカラダもしなやかに」と、年度ごとに設定しています。
――大規模なグループの中で各事業所が主体的・積極的に取り組むために、どのような工夫をしていますか。
大森義文さん:事業所間の結果に格差があったことから、健康づくりに積極的に取り組んでいる事業所を「健康増進努力賞」として表彰する制度を導入してモチベーション向上を図りました。
また、各事業所においてMHP活動の主体的エンジンとなる人材を「推進リーダー」として位置づけ、年1回「推進リーダー研修」を開催し、各種知識の付与・情報共有を行い、活動の活性化につなげています。
一部の関連会社に対しては、健康保険組合の方で個別施策を企画したり、健康セミナーの講師を紹介したりと、少しでも活動が活性化するような支援を行っています。
――会社、労働組合、健康保険組合は、どのように連携しているのでしょうか。コラボヘルスをスムーズに進めていくポイントを教えてください。
杉原さん:MHP21は会社・労働組合・健康保険組合の三者協働事業ですので、経営目線・保険者目線・従業員目線と、それぞれの立場から活動の意義をとらえ、同じ方針で推進できるように取り組んでいます。日頃から三者が情報共有を行いながら、三位一体でグループ横断的な健康経営の実現を目指しています。
ポイントはやはり、情報共有を密にすることだと思います。新型コロナウイルス流行の影響もありますが、オンラインの情報共有ツールやコミュニケーションツールを活用してデータや課題を共有し、迅速に対策することで、活動を最適化するように努めています。
――MHP21のステージⅢは期間終了を迎えますが、どのような成果が表れたのでしょうか。
杉原さん:目標のうち、「適正体重」以外の4項目で改善傾向にあり、「歯の手入れ」についてはKPIを達成することができました。また、日本健康会議、厚生労働省、経済産業省による「健康スコアリングレポート」では、全健保組合平均や業種平均と比べても成績が良く、項目別の結果も大半が上位に入ることができています。今後は達成できなかった課題を分析しながら取組を推進していきますが、特に、適正体重と相関の強い食習慣の改善に向けた対策を強化していく必要があると考えています。
――ステージⅢの終了後には、どのような取組を始めるのでしょうか。
杉原さん:2022年度からは、過去20年間の活動精神と成果を継承しつつ、一人ひとりの「健康満足度」を最上位目標に置いた活動「MHP いきいきワクワクACTION」(以下、新MHP)」を展開します。グループ各社の経営の主軸の一つとして位置づけており、2026年度まで実施する予定です。
ステージⅢの反省点の一つとして、医療費の抑制や生産性の向上といった、経営面の目的が前面に出すぎてしまい、「従業員にとっては組織活動の一環であり、主体的に取り組もうと思える活動ではなった」という課題がありました。そこで新MHPの策定時には、まず「どのように一人ひとりに健康課題を自分事化してもらうか」を徹底的に検討しました。その結果、先々の健康や疾病予防に目を向けるのではなく、 「快食・快眠・快便」という日々の”健康満足度(いきいきいきワクワクの度合い)“に着目しました。この下に生活習慣の目標を紐づける形に再構築し、従業員が成果を“主観的に体感”できるようにしています。「メタボにならない」よりも「食欲があり、おいしく食事がとれている」という目標設定にした方が、多くの従業員が前向きに取り組めると考えたわけです。
――新たな施策の中でも、注力していくものを教えてください。
杉原さん:新型コロナウイルスの流行により集合形式での研修などができなくなったため、多くの施策をオンラインにシフトしました。ただ、やはりオンラインだと一人ひとりのちょっとした変化や異常に気付きにくく、一部の人はメンタルヘルスが悪化するケースもありました。在宅勤務、新しい生活様式、感染症対策など、環境が一変したことでストレスがなくなった人もいれば、逆に、ため込んでしまった人もいます。
こうした背景を踏まえて、新MHPではICTツールを活用することで、個人へのアプローチをいっそう強化することにしました。具体的にはヘルスケアアプリサービスを通じて、健診結果に基づいた健康づくりの情報提供や生活習慣病の発症シミュレーションを提供し、さらに、自分の健康状態や課題に応じて取組を選べるようにする予定です。いわば、「健康情報&健康施策のパーソナライズ化」を考えています。
――長年の健康経営によって明らかになった、数値結果以外の成果、および課題を教えてください。
杉原さん:「健康寿命をのばそう!アワード」を受賞したのは約10年前ですが、第1回として注目が集まったこともあり、従業員やそのご家族に「社外から見ても有意義な取り組みである」というポジティブな認識が広まったと考えています。過去の積み重ねが功を奏し、「健康経営優良法人」および「ホワイト500」の認定も受けており、ステークホルダーをはじめ、社会全体から一定のご評価をいただいているものと考えています。
一方で、健康経営の効果を、経営的な観点からどのように測定し指標化するか、という課題があります。これについては、経済産業省の「健康経営度調査」などでも求められていることであり、2022年度以降の活動における課題の一つに位置付けています。現在は、アブセンティ―イズム(心身の体調不良により職務が行えない状態)と健康施策の相関などをしっかりと分析したいと考えているところです。
吉田さん:従業員の安全と健康づくりについて取り組むことは、企業の社会的責任として当たり前のこととなりました。特に昨今は、健康づくりという根幹は変わらないものの、力点がシフトし従業員エンゲージメントが注目されるようになっています。こうしたことも踏まえ、2022年度からの新MHPにおける健康経営プランは、従業員一人ひとりが毎日をいきいきワクワクと過ごせているかどうか、ということを重視しています。日々を健康的に過ごすことができていれば、結果として仕事のパフォーマンスにも、コミュニケーションにも良い影響があり、全体として従業員エンゲージメントの向上につながるものと考えます。今後は、健康づくりのさまざまな取組と従業員エンゲージメントとの関連性も整理の上、健康経営を進めていきたいと考えています。
――最後に、保健事業や健康経営に取り組んでいる担当者へ、メッセージをお願いいたします。
杉原さん:健康づくりに関わる施策は、企業や健康保険組合の単位で展開されていることが主だと認識してます。しかし、従業員の家族、その近隣住民まで視野を広げると、企業の垣根を超えた、業界単位や地域単位での取組も必要になるでしょう。特に、同じ課題を抱えている企業とは、協働で課題解決に取り組むことができると思います。ノウハウを共有できるプラットフォームがあるだけでもずいぶんと違います。現時点ではセキュリティの問題などで難しい部分も多いのですが、「健康スコアリングレポート」を開示・比較できるようにするなど、社会全体で取り組んでいくことが求められているのではないでしょうか。国民、市民、従業員と呼び方は違っても、目指すところは同じ一人ひとりが「健康」であることです。保健事業や健康経営に携わる方々と協力しながら、日本全体の健康づくりに向けて一緒に取り組んでいきたいと思います。
※記事中の部署・役職名・認定取得状況は取材当時のものです。