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「第8回健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 優秀賞 受賞楽しいから参加する&続く!
オリジナリティあふれる取組で従業員の主体的な健康づくりを推進
株式会社KSK
会社などの組織で健康づくり施策を展開していく際、企画・実施する側と、その施策に参加する従業員や職員等の間に、意識のギャップや取組への温度差が生まれることがあります。従業員等が積極的に参加してくれる健康づくり施策にはどのような工夫があるのでしょうか。今回ご紹介するのは、2019(令和元)年開催の「第8回 健康寿命をのばそう!アワード」で厚生労働大臣 優秀賞を受賞した、株式会社KSKの「わくわく健康プラン」です。施策の特徴は、参加者が“楽しみながら”活動できること。参加率は75%(2019年度)に達しており、従業員の主体的な健康づくりが実現されています。そこにはどのような工夫が施されているのか、株式会社KSK Healthy Greenプログラム事務局 管理本部 人事担当 保健師の木戸美里さんに聞きました。
(画像はすべて株式会社KSKによる提供)
――健康経営に取り組み始めたきっかけを教えてください。
木戸美里さん(以下、木戸さん):2013年、ヘビースモーカーだった2名の従業員が相次いで脳疾患を発症しました。この反省から禁煙運動を開始したことが健康経営の第一歩です。その後、全社的な健康維持・増進のためには禁煙だけでは不十分と考え、2014年に「わくわく健康プラン」を発足し、従業員の健康意識向上を目的とした仕組みづくりが始まりました。
――「わくわく健康プラン」の仕組みについて教えてください。
木戸さん:「わくわく健康プラン」は、従業員が主体的に、目標に向けて健康活動を行うための制度です。テーマは「食事」「運動」「睡眠」「適正飲酒」「禁煙」「フリー(自由)」から自由に選び、日々の活動を記録に残していきます。現在は、健康診断結果で特定の項目に課題のある従業員や、「何をすべきかがわからない」という従業員に向け、「保健師コース」も導入しています。
「わくわく健康プラン」の対象は個人だけはなく、従業員同士がチームで参加できる「チーム活動」もあります。また、活動や報告の実施状況によって貯まるポイントと、ポイント数に応じたインセンティブを付与することで、モチベーションが維持されるように工夫しています。このように、日々の生活の中で楽しみながら取り組んでもらうことで、健康意識の向上、健康づくりの習慣化が実現されることを目指しています。
――なぜ、“楽しみながら”取り組めることを重視するのでしょうか。
木戸さん:会社が一方的に健康経営を押し付けても、従業員の意識や行動はなかなか変わらないからです。楽しめる要素を盛り込むことで、主体的に参加してもらうことが可能になると考えました。従業員が自由にチームを編成し、目標もメンバーと定める「チーム活動」は、その一例です。モチベーションを自分だけで持続するのは難しいものですが、仲間と楽しみながら励まし合い、達成感を共有することで、ポジティブな感情が生まれ、精神的にも支えられます。実際にチーム活動をしている従業員からは、「チーム活動をしたことで、普段よりも多い歩数を維持できた」「諦めずに続けられ、目標を達成できた」といったコメントが、多数寄せられています。
――現在に至るまで、施策をどのように改善してきましたか?
木戸さん:当初は、参加者に毎月Excelで活動内容を報告してもらっていました。しかし、集約に手間を要すること、参加者も活動にマンネリを感じ始めていたことから、2018年からはウェブサイトでの運用に移行しました。活動量計と連動でき、そのデータを読み取るデバイスにかざすだけで歩数が自動で登録できるようになり、使い勝手が大幅に向上したと思います。アンケート機能も導入したことで、施策の改善にも役立っています。
また、活動の好事例を紹介する社内報、ポイントに応じてランクが付与される「わくわく健康プラン スター制度」、1年間で最も「わくわく」活動した従業員やチームに対する表彰など、取組が活性化する工夫も行っています。表彰者は従来、事務局で選定していましたが、より積極的に参加してもらうため、2021年度からはエントリーシートによる応募制に変更しました。
――健康経営の推進体制を教えてください。
木戸さん:当社では健康経営を重要課題と捉え、代表取締役社長を健康経営担当の最高責任者に任命し、従業員とその家族の健康支援を行なっています。運営では、私たち健康管理担当が中心となり、産業医などの専門家、安全衛生委員会などの健康推進スタッフと連携しながら取り組んでいます。
専門家の意見は説得力や行動変容にもつながることから、近年は効果的な実施方法や見解を積極的に確認し、施策立案の段階から参加してもらうようにしています。各地区の安全衛生委員会には、拠点内での健康情報発信や施策の活性化のほか、新型コロナウイルス感染症対策などでも協力してもらっています。
――経営層はどのような形で取組に参加していますか?
木戸さん:代表取締役社長は、自身の健康づくりや健康施策への思いを、社内報などで発信しています。健康経営の方針や健康施策のテーマなどの考案は、経営層とともに検討を重ねながら進めてきました。
禁煙運動から始まった当社の健康経営ですが、始動当初は経営層にも喫煙者がおり、運動の推進に納得してもらうこと自体が課題となっていました。しかし、トップが健康増進の姿勢を示さなければ、全社的な喫煙者ゼロは実現できません。そこでまずは、経営層や部門長を中心に禁煙を進め、手本を示すことで他の従業員にも禁煙に関心を抱いてもらうようにしました。当時、社長(現会長)自ら喫煙者と面談をするなど、経営層と従業員の距離は近いと感じます。当社は喫煙者ゼロを達成していますが、トップ層の積極的な姿勢が会社全体の空気づくりに及ぼす影響は大きいのではないでしょうか。
――取組を通じて見えてきた課題はありますか?
木戸さん:社内アンケートの結果から、4人に1人が常習飲酒をしていること、10人に1人が毎日飲酒をしていることが判明し、過度な飲酒習慣が課題だと感じています。当社の健康診断の有所見率は「肝機能」「脂質代謝」「血糖値」がかなり高く、該当する従業員は飲酒頻度や飲酒量が多い傾向にあることもわかっています。そこで、適正飲酒を推進する「適正飲酒推進プロジェクト」を2018年より開始しました。「わくわく健康プラン」でも「適正飲酒」をテーマに活動してもらったり、保健師コースの中にも「適正飲酒コース」を追加しています。
また、WHOによる国際疾病分類(ICD)に「ゲーム障害」が追加されることを受け、スマートフォンやゲームによる悪影響が問題になっていると感じたことから、2019年度より「スマ健」(スマホ健康使用運動)を開始しました。スマートフォンの過度な使用がもたらす睡眠不足、集中力低下、依存症などの予防に向けて、健康施策の一つに加えています。
――新型コロナ流行下において、取組をどのように対応させてきましたか?
木戸さん:集合型のウォーキングイベントやメンタルヘルス研修などが困難になるとともに、テレワークに起因する肥満やメンタルヘルス疾患が課題として浮上してきました。そのため、健康支援のオンライン化を図りました。メンタルヘルス研修、産業医面談、健康相談などをオンラインで行うことで、以前よりも気軽に参加できる環境になったと思います。
イベントでは、自宅で実施可能なラジオ体操キャンペーンを開催するなど、運動習慣の定着・維持を促進。飲酒量の増加やアルコール依存の予防に対しては、ノンアルコール飲料を推奨するための人気投票「ノンアル飲料総選挙」を実施するなど、限られた状況の中でも楽しめるように工夫しました。
課題の早期発見・対応に向けては、「アルコールスクリーニングチェック」「スマホ使用度チェック(ネット依存スクリーニングテスト)」「心の元気度チェック(うつスクリーニングテスト)」を定期的に実施し、結果によって産業医面談やカウンセリングにつなげています。
従業員のエンゲージメント向上を目的とした施策では、以前は会社主催のバーベキューを実施していたのですが、オンラインでの会食に補助費を出す制度に変更しました。対面で実施していた読書会も、オンラインで続けています。新型コロナ流行下だから中止にするのではなく、できる限り諦めず、工夫して可能な範囲で行うようにしています。
――お話を伺っていると、“KSKらしさ”やオリジナリティを大切にしているように感じます。健康づくり施策を企画する際に意識していること、ポイントを教えてください。
木戸さん:施策立案で重視しているのは、まずは従業員の視点に立つことです。「どうしたら心理的な障壁を下げられるのか」「できるだけ多くの従業員が参加できる方法とは」と日々試行錯誤しており、アンケートのデータも分析するようにしています。取組を進めていく上での課題、求められている健康づくりのテーマやニーズを踏まえて検討しています。その上で大切なのは、やはり楽しめることです。楽しむことが活動を持続させ、効果の最大化につながるからです。
施策を成功させるためには、段階を踏むことも必要だと思います。まずは、「意識づけと風土づくりのための情報発信」を行い、次に「参加型のイベントやキャンペーン」を実施しています。例えば、飲酒の健康被害についての情報発信をした後に「ノンアル乾杯・STOP!お酌運動」で実際に飲酒を控えるような活動を促す、というように施策のストーリー性を意識しています。当社では、「わくわく健康プラン」というネーミングや、適正飲酒推進プロジェクトの「お酒は適量!気分は上々!! 健康向上!!!」というスローガンを、従業員からの募集で決めましたが、このように施策のスタート時点から従業員に参加してもらうことで新たな施策へも他人事ではなく自分自身のこととして意識することに繋がると考えています。
――2019年に「健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 優秀賞を受賞したことに対する反響、影響はありますか?
木戸さん:対外的に評価されたことで、当社の健康施策について興味を持っていただける機会が増えました。採用活動においてもアピールポイントになっているだけでなく、入社者に対する入社オリエンテーションの中でも、「わくわく健康プラン」を、アワードを受賞した施策として自信を持って紹介することができています。また、「健康寿命をのばそう!アワード」の評価委員である中村正和先生からのご紹介で、日本健康教育学会誌へも当社の健康施策について投稿させていただきました。
これまで施策を行っていく中でさまざまな試行錯誤を重ねてきましたが、担当者として励みになり、改めて今後も新たな施策を展開していきたいと、モチベーションアップにもつながっています。
――最後に、健康づくりに取り組んでいる担当者へ、メッセージをお願いいたします。
木戸さん:健康施策は、従業員が自ら健康を意識し、行動を変えていくことが重要です。そのためには膨大な時間や労力が必要になるかもしれません。「個人の健康のことをなぜ会社から指導されるのか」と、ネガティブに捉えられてしまうこともあるかと思います。しかし、健康でなければ仕事のパフォーマンスも発揮できませんし、医療費など金銭的負担もかかります。本来、健康を維持することは従業員にとってメリットしかありません。施策の内容や目的だけではなく、「健康は生きていく上で資本であること」を根気強く発信し、少しずつでも思いを伝えていくことが重要なのではないでしょうか。
ここ数年で、健康経営に取り組む企業は増えました。今後も健康経営が浸透・発展していくことが、日本の将来のためにもなると信じています。さまざまな領域で健康づくりに取り組んでいる企業の皆さんと一緒に、超高齢社会でもイキイキと生活ができるような社会づくりに貢献できたらうれしいです。当社もまだまだ課題が多く、他社から学ばせていただくことばかりです。ぜひ、健康づくりに携わっている皆さまのノウハウや効果的な施策などを教えていただけるとありがたいです。
※記事中の部署・役職名は取材当時のものです。