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第12回アワード
生活習慣病予防分野 厚生労働大臣 最優秀賞 受賞既存の機能に遊び心をプラスした施策で健康づくりを普及
山形から全国モデルへ!進化を続けるSUKSK(スクスク)プロジェクト
山形市役所(山形県)
「健康医療先進都市」のビジョンのもと、食事(S)、運動(U)、休養(K)、社会(S)、禁煙・受動喫煙防止(K)に留意する「SUKSK(スクスク)生活」を独自に提唱、「第12回健康寿命をのばそう!アワード」で厚生労働大臣最優秀賞を受賞した山形市役所。
プロフェクト立ち上げのきっかけや事業が着実に拡大したポイントについて、山形市役所の後藤好邦氏(健康医療部 健康増進課長)、大場俊幸氏(健康医療部 健康増進課係長・SUKSK推進係)、小林桜子氏(健康医療部 健康増進課・SUKSK推進係/保健師)の3名にお話を伺いました。
――山形市健康ポイント事業「SUKSK」の目的や仕組みについて教えてください。
大場俊幸氏(以下、大場氏):「SUKSK」の目的は、山形市民の健康寿命を損なう3大原因である「認知症」「運動疾患」「脳卒中」の発症リスクとなる生活習慣病の予防です。
仕組みとしては、スマートフォンのアプリや歩数計、介護予防手帳などを活用し、歩数などによってポイントがたまると、抽選で市の特産品が当たるというものです。抽選は5000ポイントを1口として6月末と12月末の2回、自動で行われます。
歩数以外にも、健診や検診の受診、市内の飲食店で提供する市認定「SUKSKメニュー」の飲食、J2モンテディオ山形との連携によるサッカー試合観戦、地域の清掃活動や運動会など、幅広い年代が参加できる活動をポイント対象としています。今年度はそれに加え、お花見やグラウンドゴルフ、低山ハイキング、山形花笠まつりなどにもポイント対象を拡大しました。
小林桜子氏(以下、小林氏):ポイントのため方については、歩数によるポイントは1日3000~3999歩で30ポイント、3000歩以上は1000歩ごとに10ポイントずつ獲得できるポイントが増えていき、8000歩以上になると100ポイントを獲得できます。
それ以外にも、ラジオ体操やストレッチ体操をしたり、減塩にとりくんだりなどすると、スマートフォンアプリのセルフチェック機能を利用して各5ポイント、2種類以上の健診や検診を受けたら1000ポイントというように、多くのポイント獲得方法があります。
また、市の健康づくり講座をはじめとしたさまざまなイベントなどへの参加でもポイントがたまります。健康づくり講座だけですと、どうしても参加してくださる市民の方も限られてしまいますが、おまつりなどでもポイントがたまるとしたことで、健康にそれほど興味がなかった方も参加しやすくなり、それが健康づくりのきっかけになっているのではないかと思います。
――このプロジェクトのローンチは令和元年9月ですが、立ち上げのきっかけはどのようなことだったのでしょうか。立ち上げまでの経緯も教えてください。
後藤好邦氏(以下、後藤氏):山形市には「健康医療先進都市」「文化創造都市」という2大ビジョンがあります。なかでも、現在3期目で9年目を迎える佐藤孝弘市長が、就任当時から目指すべき都市像として掲げたのが「健康医療先進都市」です。
実は、山形市は人口10万人あたりの医療機関の数や病床数、医師数などが東北の県庁所在地の中でも一番高かったにもかかわらず、その強みを活かせていませんでした。その強みを産業や観光の振興などにつなげて活かしていきたい、ということで掲げたのが「健康医療先進都市」でした。
それを具現化するための1つの目標が「健康寿命の延伸」で、その施策として健康ポイント事業「SUKSK」を立ち上げました。
大場氏:立ち上げの経緯については、当時の担当者から聞いたことになります。山形市は平成31年4月に中核市になり、それに伴って保健所を持てるようになりました。そこで、「健康医療先進都市」というビジョンに合った施策を展開していこうとさまざまに考えた中で、当時の保健所長が最も大事にしていたことが、「エビデンスに基づいた施策を打ち出さなくてはならない」ということでした。
その時、まず分析したのが「山形市民の健康を損なう原因とは何か」で、その分析のために健康寿命について「要介護2になっていない状態」と定義しました。そして、山形市民が要介護2になる原因を医学的に検証したところ、認知症、運動疾患、脳卒中がワースト3であることがわかったのです。
この3つにならないようにすることが健康寿命を延ばすことだと考え、そのためには生活習慣病の予防が大切だというところで、では具体的にどうすればいいのかを、市民の方にわかりやすく伝えるために作ったのが、「SUKSK」という5つのキーワードです。
食事(S)、運動(U)、休養(K)、社会(S)、禁煙(K)を重点テーマに置き、市民の健康のための取組みをはじめたのです。
その「SUKSK」を目指すべき基本的な柱として、どのような施策を展開するかと考えていく中で、市長自らが健康ポイント事業を見つけてきて、目玉にしようということで、名称もそのまま「SUKSKプロジェクト」として始まりました。
――平成31年4月に準備が整ってから、ローンチまでに半年しかかかっていません。どのように進めたのですか。
大場氏:もともと中核都市になることは何年か前から既定路線でしたので、このプロジェクトを実際にやろうとなったのは、平成30年でした。そこから、市長からの「最先端のことをやろう」という指示を受けて、すでに健康ポイント事業を展開している自治体をいくつか回りました。その良いところを取り入れてスキームを組んだうえで、平成31年4月にはプロポーザル方式で応募を募り、業者が決定したという流れです。
後藤氏:短い期間でローンチできた1つの理由としては、業者がすでに展開している既存のシステムをカスタマイズせずにそのまま使っていることがあります。基本的にはどこの自治体でも同じように使える汎用型のアプリに山形市の主催団体コードを入力すると、「SUKSK」が立ち上がるという形です。あくまでも、元々あったシステムを活用して、その機能を山形市らしく使っているということなのです。
――企画からローンチまで、さまざまなご苦労があったことと思います。取り組みを進めるうえで大変だったこと、乗り越えた課題などには、どのようなことがありましたか。
大場氏:一番はやはり財源でした。プロジェクトを運用していくにあたっては、業者へのシステム委託費がかかります。それも、1人あたりの料金がかかるので、利用者が増えれば増えるほど、財源が必要になるのです。
それを解決したのが、「地方創生推進交付金」、今の「デジタル田園都市国家構想交付金」でした。ただ、「地方創生推進」という名の通り、これは産業振興や定住移住などを推進することを目的とする交付金です。「SUKSK」というプロジェクトは健康施策なので、そこにダイレクトにはつながりません。
そこでどうしたかというと、市役所内の商業関連の部署と連携して、中心市街地の活性化を打ち出したのです。中心市街地の飲食店で「SUKSKメニュー」を展開したり、中心市街地の回遊性を高めるために市民の方に歩いてもらうという施策を作って、単純な健康施策ではなく街づくりにつなげたことで、交付金を受けることができた。そこがターニングポイントだったそうです。
――「SUKSK」の特徴として挙げられていたことの1つに「二次元バーコードのスマホ読み取りでポイントを獲得できる機能の最大限の活用」があります。どのような取り組みをされたのでしょうか。
小林氏:市の健康づくり講座や花笠まつりの会場、お花見のスポットなどで活用しているのが二次元バーコード、いわゆるQRコードです。それらの会場などにQRコードを設置させていただき、市民の方に読み取っていただくという形になっています。
例えば、花笠まつりの場合には、山形市役所1階正面玄関、やまがたクリエイティブシティセンター Q1、山形まるごと館 紅の蔵の3カ所にQRコードを設置し、その3カ所を歩いて回ってQRコードを読み込むと、各200ポイント、合計で600ポイントを獲得できるとしました。
後藤氏:山形市街の近くにある、小一時間ほどで登れる盃山をはじめ、5つの山の頂上や頂上付近の建物にもQRコードを置き、「低山ハイキング」と名づけて、登っていただくとポイントがたまるという仕掛けもしています。
――令和4年度までの4年間の登録者数の年平均成長率は45%で、2024年1月現在、約13000人の登録者がいるそうですが、市民の方に参加していただくために、ほかにどのような工夫をしていますか。
小林氏:「山形市健康づくり運動普及推進協議会」という市民ボランティアの方と一緒に、以前からウォーキングマップを作製していたのですが、それを「SUKSK」のアプリの中にも設定しました。市内の寺社や遺跡などをめぐって、「新しい山形を再発見しながら、楽しんで歩きましょう」というのが狙いで、ウォーキングマップ中のチェックポイントを回ると、GPS機能を活用してポイントが獲得できるようになっています。
SNS的な機能も、多くの市民の方が使ってくださっています。「SUKSK」×アジサイ、「SUKSK」×桜などと季節ごとのテーマを決めて、それに合った写真をアップしていただいて、こちらで素敵だなと思った写真を市のホームページで公開させていただいているほか、「いいね機能」のようなものがあるので、アップした写真につく「いいね」の数でランキングし、上位の方に「SUKSK」グッズを進呈しています。
この機能も、実は汎用型のアプリに入っているものなのですが、コンテスト形式にして上位の方に記念品を差し上げるというところが、山形市のオリジナルの企画です。
後藤氏:今年度は、「SUKSKポイントアップデー」も創設しました。毎月第3土曜日と日曜日を「ポイントアップデー」として、当日8000歩以上歩いた方に、通常100ポイントのところ500ポイントを付与するというものです。山形市内で毎週日曜日にポイント10倍デーをやっているスーパーがあるので、それをヒントにしました。
このような、「あそこのスーパーのマネね」と、地元の方ならだれでもわかるようなものを取り入れるなどの遊び心と、既存の機能をくっつけて、楽しい仕掛けにしているところも、このプロジェクトの特徴だと思います。
――もう1つの特徴として挙げられている「市内企業の事業所登録の推奨」についても、お聞かせください。
大場氏:「SUKSK」プロジェクトのアプリは、基本的には山形市民しか使えないのですが、市内の企業が事業所登録をすると、他市町村から通勤している山形市民以外の方も使えます。
今、健康経営が盛んに言われている中で、事業所の健康づくりに取り組む企業が増えていますので、連携することで企業には健康経営のツールの1つとして使えるというメリットが、プロジェクトとしても利用者が増えるというメリットがあります。また、事業所に勤務されている方にとっても、自分では健康づくりに取り組まないけれど、事業所が一体となっていることで取り組むきっかけになるというメリットがあるのではないかと思います。
実際に事業所登録数もどんどん伸びていて、プロジェクトが始まった当初の4倍近くになっています。
――プロジェクトを進める途中で、新型コロナウイルス感染症の影響があったかと思いますが、その点はどのように乗り越えてこられたのでしょうか。
大場氏:「SUKSK」プロジェクトは、イベントと関連づけるなどして、QRコードでポイントを獲得できる点を最大限活用しています。ところが、コロナ禍ではイベントがなくなってしまい、こちらからアプローチできなくなったので大変でした。
ただ、その点はどこの自治体でも同じですから、その中で山形市が乗り越えてきたポイントは、「細々とでもやめずに続けた」という点だと考えています。優先順位からすると「一時的に中止する」という選択肢もあったと思うのですが、そこでやめずにアプローチし続けたことが、結果として今につながっているのではないかと思います。
後藤氏: SUKSK推進係が属する課には感染症第一課、第二課もあり、新型コロナウイルス対策には課全体として取り組むべきでしたので、「SUKSK」に注力することはできませんでした。そういう中でも、市としてはきちんとその考え方を市民の方に理解していただき、また市民の方も地道に健康づくりに取り組み続けていただいた。そのことが、今ここまでになっている要因の1つだと考えています。
――ほかの自治体の健康ポイント事業との違いは、どんなところにあるとお考えですか。
大場氏:ひと言で申しますと、ブランディングとマーケティングだと思っています。ブランディングについては、何よりもまず、市長の「健康医療先進都市」というビジョンの強さがあり、それを掲げただけでなく、施策に落とし込むことを必ずやってきたという点があります。それから、「SUKSK」というパワーワードを使って健康施策を行ったことも挙げられると思います。
後藤氏:市長が常に言っているのは、「ビジョンとは、都市として目指すべき方向。あらゆる部門が健康医療先進都市を実現するための視点を持って、施策を考えるように」ということです。
例えば、中心市街地の活性化に向けた「山形市中心市街地グランドデザイン」という計画があるのですが、そのテーマは「歩くほど幸せになるまち」です。これも、健康医療先進都市の実現のために、自家用車などではなく公共交通機関を使いながら、歩いて街を回遊してその魅力を市民の方に感じてもらう。住んでよかった、訪ねてよかったという街を築いていきたいという意図で、市役所全体として同じ方向を向いて施策を考えているというところがあります。
大場氏:全職員がそのビジョンを理解しているので、他の課から「SUKSK」プロジェクトにオファーが来ます。環境課からの「夏に、蔵王山クリーン作戦といって山をきれいにしながら自然も観察しようという企画をやっているから、SUKSKポイントの対象事業にしてはどうか」というのをはじめ、いろいろな課から「うちの事業も対象にしてほしい」というオファーが増えていて、今、200を超える事業があります。
――「SUKSK」というパワーワードを用いた施策ブランディングについて、もう少しお教えください。
大場氏:健康ポイント事業は、いろいろな自治体で行っていますが、大体「健康マイレージ」など「健康」をキーワードにしているものが多い印象です。でも、このプロジェクトのメインターゲットは30代、40代、50代の方たちで、それより年配の方たちに比べると、まだ健康にそれほど関心がないことが多いので、「健康」をキーワードにすると、あまり興味を惹かれないと考えられます。
それが、「SUKSK」というキャッチコピーがあることで、「何だろう?」と興味を持ってもらえたのです。メインターゲットではないもっと若い方や子どもさんにも興味を持ってもらえたので、固有名詞があることで浸透率が全然違ってくることを実感しています。
――マーケティングという面では、どのような点が違いだとお考えですか。
大場氏:先ほど申しました通り、メインターゲットを最初から30代、40代、50代に設定しています。登録していただく方法を考えたときに、紙も考えられたのですが、アプリというターゲットに合わせたツールを中心にしました。
今、登録方法にはアプリ以外に配布していた歩数計と介護予防手帳があるのですが、その割合はおおよそ8:1:1で、年配の方もアプリを選んでいることがうかがえます。その理由は、やはり「QRコードが読める」というアプリ独自の機能をどんどん高めていったことに起因していると思います。
――マスメディアへのパブリシティも活用しているそうですね。
大場氏:これは、今年度、特に推進したことです。積極的に記者会見を行ったり、プレスリリースを出して、マスコミに注目していただいて記事にしてもらうことを徹底して行っています。やはり、地方都市の場合、テレビや新聞などに出たことで認知度が格段に上がる部分があります。
後藤氏:新聞などに掲載していただくのは、無料で広告を掲載してもらうことと同じです。ですから、記者の方が取り上げたいと思うような取り組みをこちらから提供して、記者の方にもしっかりいい記事として掲載していただくという、お互いにメリットがある形で、連携しているというところだと思います。
――SNSの活用についてもお聞かせください。
大場氏:FacebookやLINEは気軽にできるので、よく活用しています。昨夏は「SUKSKメニュー」の認定飲食店のメリットを向上させるため、全店舗を係員が手分けして自費で実食し、市の公式SNSでシリーズ化して投稿しました。
――「SUKSK普及5つのポイント」として、これまでお伺いした①QRコードの活用②参加者を飽きさせない楽しい仕掛け③事業所登録の推進④徹底したプロモーション以外に、「専門家やヘルスケア企業との連携」を挙げられています。これはどのような取り組みですか。
大場氏:専門家との連携は今年度から始めたことで、山形市在住のフィットネストレーナーの方など、SUKSK生活に関連する分野の第一人者を「SUKSKマイスター」として委嘱し、健康について楽しく学べる「SUKSKスクール」の講師や健康プログラムの開発をお願いしています。「SUKSKスクール」は、すでに第2回まで開講しました。
後藤氏:ヘルスケア企業との連携では、楽天との連携が挙げられます。楽天にも「ヘルスケア」という「SUKSK」と同じようなアプリがあり、両方を持っていただくと「50万ポイント山分けキャンペーン」に参加できるというものです。実はポイントは山分けなので、上限も決まっているのですが、企業との連携はインパクトが大きく、マスコミに取り上げていただける機会になるので、思い切って実施しました。
大場氏:これは「全国初」の企画で、そのワードを使ったことで、マスコミの反応がとても大きかったです。もちろん、プロジェクトの中身も大事ですが、知ってもらわなければきっかけにすらなりませんので、やはり話題性も大事だと感じました。
後藤氏:このときのマスコミ記者会見では、「これで登録者が伸びるとはいえないのではないか」という質問が出たのですが、それに対して、市長は「いろいろなチャレンジをして、担当者が創意工夫をしながら取り組みを進めています。何が成功するか、失敗するかわかりませんが、何よりチャレンジすることが大事と考えています」と答えてくれました。
そのように市長が後押ししてくれるので、私たちとしても新しいことに取り組みやすいという面が間違いなくあると思っています。
――山形市民の健康寿命は取り組み前後を比較すると延びていますね。これまでに伺った取り組みによって、他にどのような変化があったでしょうか。
大場氏:「SUKSK」アプリ登録者へのアンケートで、約9割の方が「栄養バランスや減塩に気をつけるようになった」「ウォーキングなどの適度な運動を意識するようになった」など、健康意識が向上したと答えています。また、実際に行動の変化もあったと答えた方も約9割に達しました。
後藤氏:これはとても大事なことです。「SUKSK」というシステムにいざなうことによって、健康意識が高まる市民の方が増えているので、ますます登録者を増やしていくことが市民にとって有益なことにつながるという裏付けになるのではないかと思っています。
――市民の方などからの反応や感想などはありましたか。
小林氏:年2回の抽選会後に当選者に景品を送ると、必ず2~3件はお礼の電話がかかってきます。「また頑張れる気力がわきました。どうもありがとう」という声を聴かせていただき、こちらもうれしい気持ちになります。
「歩数計の電池がなくなったのでどうしたらいいか」と窓口に来られる方も2日に1回ぐらいいらっしゃいます。電池交換できなかった2~3日の間の歩数のことを気にされていて、本気で取り組んでくださっていることが伝わってくるので、担当者としてもいい事業だと思っています。
また、「周りの方がやっているので自分もやりたいが、どうやって始めるのか」という問い合わせで窓口に来られる方もいらっしゃるので、「SUKSK」の2つ目の「S」である「社会」に参加するということも実現しているのだと思います。
――今後取り組んでいきたい課題や展望がありましたら教えてください。
後藤氏:「SUKSK」プロジェクトのきっかけとなった山形市の健康寿命を損なう理由について見ると、急性心筋梗塞による死亡率はまだ高く、糖尿病の罹患率も全国と比べて高いままです。健康寿命は延びてはいるのですが、1つ1つの課題はまだ解決できていません。
今までのアプリはどちらかというと「みんなで歩いて健康になりましょう」という、どちらかというと「全体最適」でしたが、こうした課題を解決するためには、「個別最適」にアプローチしていくことがこれから問われていくと思っています。
具体的には、ある程度健康な方は「SUKSK」を使って健康を維持していただく。ただ、本当に高血圧とか血糖値が高いなど、生活習慣病に直結するような方には、それぞれの状況に応じたサービスがこれからは必要になってきます。それについては、AIを用いて健康状態を解析して疾病の可能性を知らせる「AI診断」とか、診断後により効果的な健康対策を教えてくれる「AI相談」など、個別最適なサービスをマッチングさせていく。そして、それがDX化につながっていくのではないかと思います。
つまり、ポピュレーションアプローチとして、遊び心を取り入れながら「SUKSK」は継続して実施していく、ハイリスクアプローチとしてAIを用いたサービスを実施するという、2本立てでやっていく形を考えています。ただし、予算もあることなので、AIについては今すぐというわけにはなかなかいかないのが現状です。
個別最適については、まずは、現在でも認知症予防のために歯周病を早期発見する目的で行っている唾液検査を多くの市民の方に利用していただく、今あるものをバージョンアップしていくということと、新しいものへのチャレンジの2つをしていく形になるかと思います。ちょうど「健康づくり21」という国の計画が策定中なので、新しいことを行うチャンスでもあると考えています。
――最後に、山形市と同じように健康事業に取り組んでいる全国の担当者に向けてメッセージをお願いいたします。
後藤氏:いかに市が普及させようと思っても、市民の方に参加していただかなくてはいい取り組みになりません。
参加しない理由は、2つあると思います。1つはその取り組みがよくないこと、もう1つは周知が徹底していないことです。前者の場合は、市民のニーズをつかんでいないときなので、市民とコミュニケーションを取りながら取り組みを進めていくことが必要になります。
ただし、必ずしも市民の方が正しいわけではありませんし、私たちが正しいわけでもありません。ですから、常にエビデンスに基づいて何が有効なのかを考えながら、それをきちんと市民の方に説明し、その反応を確認しながら事業を進めていくことが大事だと思います。