健康寿命をのばそう SMART LIFE PROJECT

健康イベント&コンテンツ

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◆自治体における健康支援の取組立案・推進

学校や企業、関係機関と連携し、健康づくりに地域人材を活用
他自治体の取組事例は施策立案のヒントに

女性の健康づくりを推進していく上で、自治体が果たすべき役割とはどのようなものでしょうか。都道府県、市町村および企業における女性の健康づくりを調査し事例集をまとめた、順天堂大学大学院 医療看護学研究科教授の飯島佐知子氏に聞きました。

順天堂大学大学院
医療看護学研究科 教授
飯島 佐知子氏
「地域」における女性の健康づくり活動の重要性、自治体の役割とはどのようなものでしょうか。

「地域」は、思春期から老年期までさまざまな年齢の女性が生活する場です。自治体は女性が健康を維持し、女性特有の健康課題に自ら対処するための知識を普及する健康教育や、健康問題の早期発見を支援するために重要な役割を担っています。

女性には年齢や結婚、出産、育児などの出来事によって生じる特有の健康問題があり、生涯を通じた女性の健康支援が必要です。平成8年より「生涯を通じた女性の健康支援事業」により、各都道府県・各指定都市・各中核市母子保健主管は健康教育事業の実施が求められています。

以下に、女性に特有の健康課題の世代別に例を挙げて、自治体の役割を説明します。

1. 思春期から青年期の女性

市町村が取り組む課題として、妊娠には適齢期があること、月経の正常と異常の区別、月経随伴症状への対処方法、適切な栄養摂取や身体活動の重要性、「やせすぎ」や貧血による健康リスク、望まない妊娠を防ぐ教育、性感染症やがんの予防を内容とする健康教育や健康相談が挙げられます。

まず、小、中学校、高等学校の教科書に着目しますと、保健体育などの教科書には月経の正常と異常についての記載は少なく、月経随伴症状の対処方法についての記載がありません1,2)。小、中学校の教科書には、月経機序、基礎体温、妊娠と月経の停止について記載され、また高等学校の教科書では避妊や性感染症に関すること、腹部膨満感、イライラ、腹痛症状などは記述があります1,2)。しかし、少子化が進んだ現代において、妊娠には適齢期があることやライフプランニングなどについても自治体は学校と協力して保健指導をおこなう必要があろうと思われます。

次に、「やせ」願望の問題です。特に10~30代にやせすぎの女性が多く、「やせ」(BMI18.5未満)の女性の割合は,昭和50年代半ばと比較すると,20~40代のいずれも大きく増えています3)。平成28年の20代の女性のやせの割合は20.7%,30代の女性は16.8%でした。国民栄養調査や、日本赤十字社の血液事業における献血不適格者の割合から鉄欠乏性貧血の女性が,とくに月経周期のある10~40歳代の女性において増加していることが明らかにされています4,5)。「やせすぎ」や貧血は、倦怠感や、易疲労感、集中力の低下を招き4)、学業や職業生活を思うように過ごせません。また、健康な妊娠出産を妨げる要因にもなり、社会的な損失にもつながります。そこで、自治体は学校と協力して適切な栄養の取り方を思春期から妊娠・出産の機序とあわせて、保健指導をおこなう必要があります。

それから、妊娠について述べます。中学・高校生、大学生の性交経験率は、平成17年の大学生男子約63%、女子約62%をピークに減少しています。平成29年の性交経験率は、大学生女子36.7%・男子47.0%、高校生女子19.0%、男子13.6%、中学生女子4.5%, 男子3.7%となっています6)。これに伴い、人工妊娠中絶実施率も平成14年をピークに減少しています。一方で、平成29年人口動態統計と衛生行政報告によると、20歳以下では出産数9,898件に対して中絶件数14,128件となっています7)。この中で、10代の妊娠は中絶に至る割合が高くなっています。従って、望まない妊娠を防ぐ教育は学校のみならず、自治体の取組も重要です。

最後に疾病について述べます。15〜24歳の性感染症の罹患率は、平成14年の女性7,000人、男性3,530人をピークに減少し、平成30年には女性2,364人、男性1,035人となっていますが、女性に多い傾向は続いています8)。一方、子宮頸がんの罹患率の推移をみると増加傾向は続いており、近年では、罹患年齢の低年齢化により20歳を境に急増し、罹患ピークが女性の初婚年齢および第1子出産年齢と重なる深刻な問題がおきています。子宮頸がんワクチンが未受診の10〜20代女性が増える中、若い女性に子宮頸がんの予防の知識や子宮頸がん検診の受診勧奨を行う必要があります。

2. 成熟期から更年期の女性

自治体が重点を置くべき課題は、男性と同様の生活習慣病に加えて、乳がん・子宮がん検診の受診率の向上、婦人科疾患の受診にむけての相談窓口、不妊相談、妊娠・出産・育児支援、更年期症状への対処教育であると思われます。 

まず、乳がん・子宮がん検診について述べます。平成30年に子宮がんは5.8万人,乳がんは22.9万人が罹患しています。経済協力開発機構(OECD)のヘルスデータ2016年によると、子宮頸がん検診受診率は、アメリカ84.5%、イギリス77.5%に対して日本は42.1%と低く、また乳がん検診受診率は、アメリカ30.3%、イギリス75.3%に対して日本は41.0%といずれも低くなっています9)。

私たちは、平成31年1月に全国の働く女性2,000名を対象とした調査を行いましたが、乳がんや子宮頸がん検診を受けない理由として、「時間がない」「場所が遠い」「費用が高い」「機会がない」と回答とした者が87%でした10)。また、職場の定期検診の項目に子宮頸がん検診、マンモグラフィー、乳房超音波検査が含まれている職場は少なく、職場から検診費用の一部または全額補助を受けた者は30.6%、マンモグラフィーは30.3%、乳房超音波検査は29.1%でした10)。非正規雇用者は検診のために仕事を休むと給与も減ることから、費用負担も大きくなります。女性のおよそ半数は非正規であることから、費用負担の軽減や受けやすくする工夫が必要です。実施主体は市町村であり、個別の受診勧奨・再勧奨、子宮頸がん検診・乳がん検診のクーポン券の配布、精密検査未受診者に対する受診再勧奨などの導入を検討するのも良いでしょう。

次に婦人科疾患の相談窓口について述べます。前述の調査では子宮筋腫、子宮内膜症、月経困難症、更年期障害等の症状を有しているが未受診の者が65.4%でした10)。また、産婦人科を受診した者は19.0%であり、産業医・保健師に相談した者は1.8%でした10)。産婦人科を受診した者も症状を自覚してから受診に至るまでの期間は平均2.18年でした。一方、何も対応していない者は43.9%、我慢している者が16.8%、どうしたらよいのかわからない者が6.9%でした8)。それゆえ、女性特有の症状について学習する機会を設けることや、日常生活を見直しセルフケアを行うきっかけを作ること、症状があれば気軽に相談できる体制を構築していく必要があります。これに対して、都道府県・指定都市・中核市は思春期から更年期に至る女性を対象とし、身体的・精神的な悩みに関する相談指導や、相談指導を行う相談員の研修を実施する施設として「女性健康支援センター事業」を全国70か所に設置しています。

第3に不妊相談について述べます。第15回出生動向基本調査によると、不妊の検査や治療を実際に受けたことがある夫婦は全体で18.2%、子どものいない夫婦では 28.2%であり、5組に1組の夫婦が不妊治療を受けていました11)。また、生殖補助医療を始めてから出産に至る確率(出産率)は20〜30歳では20%であり、1児を出産するために要する費用は約150万円となり、40歳の出産率は7~8%で、費用は372万円と高額となり12)、治療法も保険給付に対応するものと非対応のものが混在しています。特定不妊治療の経済的負担を軽減するため、平成16年より都道府県や指定都市・中核市が医療機関を指定し「特定不妊治療費助成事業」を実施し、費用の一部を助成しています。また、不妊等について悩む夫婦などを対象に全国約70か所「不妊専門相談センター」が設置されて、保健師等専門相談員が相談を行っています。

第4に、周産期について述べます。高齢出産の増加に伴う、周産期異常、産後うつについては、核家族化や地域のつながりの希薄化などにより、地域において妊産婦の方やその家族の方を支える力が弱くなっており、妊娠、出産及び子育てに関わる妊産婦の方などの不安や負担が増えていると考えられます。このため、地域レベルでの結婚から妊娠・出産を経て子育て期に至るまでの切れ目のない支援の強化を図っていくことは重要です。その相談支援をおこなうために、子育て世代包括支援センターの設置が、市町村の努力義務として母子保健法上に位置付けられました。そして、平成30年4月1日時点で761市区町村(1,436か所)に設置されており、令和元年度末までの全国展開を目指して整備を進めています。

3. 老年期の女性

老年期の女性の健康課題には、認知症、骨粗鬆症をはじめとする骨関節疾患があります。75歳以上の認知症や骨関節疾患の罹患者数は、男性よりも女性が多いといわれています。介護予防は、自治体では高齢者の保健事業として実施されています。寝たきりを予防し健康寿命を延伸するために、栄養摂取のための教育や機会、運動を中心とした介護保険による介護予防については市町村に実施が義務付けられています。

自治体の健康づくり担当者が女性の健康支援施策を検討・実施する際に気を付けるべきこと・意識すべきことはどのようなことでしょうか。

自治体の健康づくり担当者が女性の健康支援施策を実施する場合に気を付けることは、自治体によって複数の課が分担して女性の健康支援施策を担当しており、窓口が複数という場合もあるため、自治体組織内部での連絡調整が必要です。

また、自治体組織外の関係機関等との連携を図りながら実施することが重要です。そして、事業の開始前後で、投入した活動費用に対する効果を評価できるように事前に評価指標、評価時期、評価担当者などの評価方法を設定しておくことも重要です。女性の健康に関する取組の評価指標の例として、健診受診率や婦人科受診率の向上、健康保険組合の医療費の削減、更年期症状や月経関連の症状のある者の内の未受診者の減少、傷病手当受給者数の減少、セミナー受講者数の増加、ストレスチェックの値、プレゼンティーズムの減少、などが使用されていました。どのような支援がより少ない費用で効果が高いのかということを明らかにするためには、QOLなど多様な疾患でも共通して使用可能な指標を用いて介入前後で費用効果などを測る評価が必要と思われます。以下は厚生労働省による「女性の健康支援対策事業等のとりまとめ」13)に記載された自治体が工夫した点を紹介します。

①関係団体との連携

  • 若年女性を対象とした健康教育の実施では、教育委員会を通じて小学校、中学校、高等学校に加え、大学、短期大学、専門学校、各種学校へ連携を確立して、学校側の要望を把握し、健康教育を提供した。学校に積極的に働きかけることで、授業として継続的に実施する体制が整備された。
  • 働く女性を対象とした健康実態調査や出張健康教育では、企業の協力を得て、事業所健診の血液検査データ等を活用し、参加者の確保に配慮して就業時間内で実施した。
  • 健康教育では、事前に健康意識、がんに対する知識等の実態を調査し、その結果を対象者自身が認識後、講演会を受けるという連続性のある事業を展開し、同一集団の教育効果を把握した。
  • 健康教育や受診勧奨の効果の評価は、国民健康保険組合、協会けんぽ、大学研究機関との連携を構築して事業展開や事業評価を行った。
  • 食生活改善推進員団体連絡協議会と連携し同団体の研修会の終了後に「骨の健康度チェック」や調理実習などの実技を取り入れて効果を上げた。
  • 地域スポーツクラブと協同することにより、従来できなかった専門の測定機器の活用や専門指導員による指導で健康教室を開催した。
  • 美容業生活衛生同業組合の協力を得て、加盟する美容室に健康づくり情報冊子を置いた。

②人材育成・ボランティアの活用

  • 看護学科の学生など講義を受けた人の中から、活動に協力してくれる人材を得た。
  • 学園祭などにおける啓発、禁煙相談など学生が活動成果を発揮できる場を設けた。
  • 事業を実施している学生カウンセラーのフォローアップ研修を実施した。
  • 大学生と高校生の交流の場を設け、健康情報を提供した。
  • 子宮頸がんなどの性感染症は男女の重要な課題であるため、情報提供する内容を男女両方に働きかけるように工夫して男性の学生の参加を積極的に促した。
  • 講師は、不妊カウンセラーや大学教官といった専門職だけではなく、看護大学の学生など当事者にも依頼した。

③健康教育を実施する場所・時間の工夫

  • 学校、企業、地域の集会場など対象となる女性が多く集まる場所で健康教育を実施した。
  • 企業や職場に出向き、働く女性が気軽に楽しみながら参加できる健康教室を開催した。
  • イベント会場において、乳がん自己触診法を記載したパンフレットを見ながら参加者と共に実地訓練をした。
  • 交通の便が良く、人が集うのに適した市中心部に健康情報コーナーを開設した。
  • 健康相談は、短時間でも活用可能で予約不要とし、気軽に立ち寄れるように工夫した。
  • 開催日を対象者が参加しやすい土日に設定し、働く女性についても十分対応できるよう健康教育は午前・午後・夜間の時間帯に開催し、併催事業として、乳がん啓発イベント自己触診指導、マンモグラフィー体験、検診予約受付等を同じ場所で行った。
  • イベント会場に展示・体験コーナーを設置し、骨密度測定・食事バランスガイドの体験・更年期以降の健康課題となる尿失禁などの情報提供を行った。

④当事者と専門家による教育媒体の作成

  • 当事者のグループインタビューや、学生サークルメンバーなどで構成するワーキンググループによって、対象者が注目する媒体内容について意見を得て媒体の充実を図るとともに、対象者の視点で内容・デザインなどを考慮した。
  • 婦人科、乳がん・子宮がんの専門医に参加依頼して専門知識を提供してもらった。
  • 高校生の場合、掲載内容は学校などで配布される教材との重複を避けた。小学生、中学生の対象者に抵抗感が生じないように内容を配慮した。
  • 保護者向けの教材を作成し、情報を共有した。
  • 当事者が自分の食事、運動、検査値など生活習慣実態を把握し、自身が問題点を認識し、生活改善につなげられるように記入欄を工夫した。
  • 媒体の内容は、ホームページからダウンロードして継続して活用できるようにした。
  • 啓発媒体の掲載内容を地元出身の著名人を起用し、座談会形式に構成することで、広い年齢層に記事を読んでもらえるように配慮した。

⑤活動の周知の方法

  • 新聞、フリーペーパー、ケーブルテレビ、ラジオ、新聞の折り込みチラシなどで広報した。
  • 地元で女性が最も購読する情報誌に、講演内容を掲載し、参加者以外へも広く啓発した。
  • 学校を通じて保護者へチラシを配布、開催地近隣市町村、関係施設団体、大学、看護学校、地域産業保健センター、医師会等へのポスターの掲示を依頼した。
  • 学園祭や、オープンキャンパスで案内ビラを配布した。
  • 行政の女性団体管轄部局、産業関係部局と連携し、若い女性が多い企業などへ周知した。
  • 食生活改善推進協議会、健康づくり推進協議会等や新たな連携としてPTA連合会などを通じて周知用ビラの配布やポスターの掲示を行った。
  • 地域の医師会などの関係団体などに協力を求め、団体会員の診療所にリーフレットやポスターを配布した。
  • 女性の健康づくりに関するWebサイトを作成し、思春期から中高年期の女性の健康課題、女性特有のがんについての情報掲載し、女性が総合的に情報を得られるようにした。
  • セミナーを開催するにあたり、企業などに働きかけ、特に検診機会のない職域の人へ参加を促し、また、パートナーの参加を促すように広報を行った。
  • がん対策に関する協定締結企業や協力企業の窓口などへのポスター掲示を依頼した。
飯島先生らの研究班でまとめた「都道府県における女性の健康支援の好事例集」の中から、特徴的な取組事例をご紹介ください。

分担研究者の防衛大学教授西岡笑子氏らが実施した9つの県の女性の健康支援担当者へのインタビュー調査の結果から、特徴ある取組事例を紹介します10)。詳細は事例集をご覧ください。

◆千葉県

①「妊娠・出産・育児子育てに関する知識を普及するセミナー」

本事業の特徴は、以下の3点です。(1)男女の大学生を対象としていること、(2)妊娠適齢や高齢出産のリスクなどの妊娠・出産に関する基礎知識を普及し、若い世代が自らのライフデザインについて考えるきっかけとなることを目的としていること、(3)出産後の子育てについてイメージしてもらいやすいように、命の大切さや乳幼児期の子どもに対する育児の大切などの子育て期に関するさまざまな知識をテーマに加えていることです。受講者は、セミナーの開催を希望する大学などの学生で、幅広い学部や学科、学年の学生が受講しています。平成30年度は、県内の7大学でセミナーを実施しました。受講後のアンケートには男女ともに、「今まで知らなかった知識がたくさんあり、とてもためになった」や「自分自身のライフデザインについてしっかりと考えようと思った」という記載がみられました。女子学生からは「生活習慣を見直して食生活や睡眠に気を付けたいと思った」、男子学生からは「将来、もしも子どもができた時に最大限女性をサポートしていきたいと思った」といった記載がみられました。

②携帯アプリ「ちば My Style Diary」

このアプリは、結婚から妊娠・出産、子育てまでの切れ目のない支援を行うために千葉県が作成した無料のスマートフォン向けアプリです。本事業の特徴は、以下の3点です。(1)アプリで登録した市町村(最大5市町村まで)から、婚活イベントや親子イベントなどの情報が配信されます。(2)妊娠や、子どもの気になる身体の症状などのさまざまな悩みに、医師、看護師などの専門家が24時間以内に回答し、生理日や子どもの成長などをカレンダーで一括管理することができます。(3)アプリで登録した予防接種日や健診日が近づくとプッシュ通知で知らせる機能もあります。お悩み別相談や健康管理など、目的に応じた検索が可能となりました。また、タイムラインページに、県や市町村のホームぺージの更新情報が自動的に配信される機能を追加し、利用者が希望する市町村の支援情報を適宜配信できます。ダウンロード数は平成31年1月末時点で約17,000です。

◆神奈川県

①「女子力全開ハッピーライフ支援事業」

本事業の特徴は、(1) 健康教育媒体「ハッピーライフプランでいこう」を作成し配布していることです。内容は、妊娠には適齢期があること、夫婦の6組に1組が不妊治療を受けていること、がん検診の受診の必要性、避妊の方法、ライフプランの作成の必要性を説明しています。(2)BMIや喫煙、飲酒などの生活習慣だけでなく、学業、仕事、検診受診および、結婚、出産、育児の計画を立案するための「ライフプランシート」を作成、配布して包括的な健康教育を実施していることです。本事業は、各保健福祉事務所の若手保健師が妊娠、出産の正しい知識の普及を目的に媒体を作成し、保健福祉事務所の保健師が、主に10代後半~30代前半の女性をターゲットに、正しい知識の普及啓発活動をしています。

②Webサイト「丘の上のお医者さん」

本事業の特徴は、(1)Webサイトで妊娠・出産・子育てを経験する可能性のある10代後半から30代前半男女を対象に、「妊娠・出産には適正な時期がある」という正しい知識を理解し、ライフプランを「考える力」「選択する力」を育む支援をしています。(2)妊娠・出産に関わる悩みへの回答と相談窓口として、神奈川県不妊・不育専門相談センター、妊娠SOSかながわ、女性健康支援センターの連絡先を紹介しています。平成30年度は、獨協医科大学埼玉医療センターの提供する eラーニングサイト「こうのとりラーニング」とのリンクを追加し、より一層知識の普及啓発を行うなど、ホームページの見せ方を逐次改善しています。その結果、アクセス数が大きく増加しました。アクセスは20~30代が多く、男女比は1:3です。

③Webサイト「未病女子navi」

Webサイトで月経関連症状、やせ過ぎ、乳がん・子宮がんの知識と症状のセルフチェック、食事、運動、睡眠のセルフケアや啓発イベント情報を紹介しています。

◆富山県

①思春期ピアカウンセラー養成講座

専門学校生、短大生、大学生などを対象に、ピアカウンセラーを養成するための教育を実施しています。大学生が高校生などの思春期の悩みについて、共感・共有しながら寄り添って、ピアカウンセリングを行い、問題に正しく対処できるよう自己決定や問題解決の能力を高めることを支援する活動を平成27年度から県が事業化しています。講座修了者の活動は、年間2~3校です。

②対象年代別リーフレットの作成配布

10歳代、20〜30歳代、40歳代および全世代に焦点を当てた女性の健康課題について知識を普及するためのリーフレット4種類を作成し、健康教育に活用しています。特に40歳代では、更年期症状、乳がん・子宮体がん、骨粗鬆症に焦点を当てた内容となっています。

③妊活中の人も働きやすい職場づくり

職場の管理職と職員全体に不妊治療について理解を深めてもらうためのパンフレット「課長さんのための不妊治療者への理解講座」と「妊活中の人も働きやすい職場作り」を作成し配布しています。富山県には、「イクボス企業同盟とやま」という組織があります。これは企業などの管理者が、部下の仕事と家庭の両立を応援する「イクボス」となり、働き方改革に関する先進的な取組を広めるとともに、企業などの枠を超えたネットワーク形成を支援する組織です。「妊活中の人も働きやすい職場づくり」は、「イクボス企業同盟とやま」に登録している約200か所の企業と、市町村、保健所に配布されています。

同様に、「市町村における女性の健康支援の好事例集」の中から、特徴的な取組事例をご紹介ください。

分担研究者の防衛大学教授西岡笑子氏らが実施した5つの市町村の女性の健康の担当者へのインタビュー調査の結果から特徴ある取組事例を以下に紹介します10)。詳細は事例集をご覧ください。

◆練馬区

「出張健康づくりセミナー」

練馬区内の企業は、産業医の設置義務がない中小企業が90%以上を占めることから、中小企業などの健康づくりを応援する事業として、保健師、管理栄養士、歯科衛生士、運動指導士などの専門職が希望する会場に出張し、無料で健康セミナーを開催しています。これまでの出張先は、商店街、理美容組合、幼稚園など、平成30年度は10回程度開催しています。今後、周知に関して協会けんぽ東京支部と連携していく予定です。本事業では、平成29年度から健康推進課と人権・男女共同参画課が連携し、企業向けに健康経営についての講座とワークライフバランスについての講座を合同開催しています。これは主に事業主や企業の人事部門担当者を対象とした講座ですが、一般職員も参加可能です。

◆相模原市

「更年期女性の健康教室」

年間1回、婦人科医師を講師として講演会とアロマやハーブティーの試飲などのリラクゼーション体験を行っています。平成30年度からは、多くの女性に聞いてもらうことができるよう、保健師が40〜50代の女性が集まる身近な施設等(小学校や保育園、市内のお祭り、イベント会場)に出向き、健康教室や健康相談を行っています。更年期以降は生活習慣病のリスクが上がるため、生活習慣病とその予防についての内容も含んでいます。骨密度測定や血管年齢測定、乳がんの触診体験も行っており、気軽に測定し、関心を持っていただき、生活習慣を変えるきっかけになるよう心がけています。

◆新潟市

「大学と連携した子宮頸がん受診勧奨」

新潟大学大学院医歯学総合研究科産婦人科学教室の榎本教授らの研究グループに新潟市を含めた6市が協力し、平成26年度から20~22歳の女性を対象に子宮頸がん検診受診勧奨(コール・リコール)を実施しています。受診された方のうち同意が得られた方の検診結果、HPVワクチン接種歴の有無などを確認し、ワクチンの有効性を研究しました。研究協力者には5,000円のプリペイドカードや、無料のHPV検査などの特典を与えることにより20代の受診率が平成28年度29.1%から平成29年度30.0%へ上昇しました。また、乳がん検診受診券改良、検診料金の見直し、休日検診、講演会などにより、受診しやすい体制づくりに取り組んでいます。

◆横須賀市

「聞いてハッピー!女性ホルモンとの上手なつきあい方」

30代から高齢者まで幅広い年齢の女性が参加し、産婦人科学会専門医が女性ホルモンについて講演をしました。目的は、女性ホルモンについて正しく学び、女性ホルモンと上手に付き合うことで女性が自分自身を大切にし、健やかに、自分らしく幸せに生きることにつなげることでした。内容は、思春期・成熟期・更年期・老年期と女性の生涯にわたって続く女性ホルモンの影響を正しく理解し、各ライフステージにおける女性ホルモンとの付き合い方、症状への対処法、治療法について説明しました。参加数は、定員200名のところ計161名が受講しました。39歳以下が28名、40〜64歳が85名、65歳以上が48名でした。参加者から以下のような感想が寄せられました。「更年期障害の仕組みがわかり、成長期の栄養の大切さがわかり、子どもの食生活に気をつけようと思った」「産む選択をする場合はこうしたほうがいいという言い方で、産まないことを否定・批判することがなかったのでとても安心した」「治療についてわかりやすく説明してもらい、目の前が急に明るくなった気がした」「20代の学生時代に聞きたかった」「子どもを持つかどうかも考えて将来設計をしてほしいという言葉が印象的で周りの人にも伝えたい」「男性にも聞いてもらいたい内容だと感じた」などでした。

<引用文献>

  1. 吉田夏, 葛西敦子:学習指導要領とその解説および保健・保健体育教科書における排卵と基礎体温に関する記載,弘前大学教育学部紀要, 107, 113-122, 2012.
  2. 外千夏, 葛西敦子:学習指導要領とその解説および体育科・保健体育科の教科書における月経に関連する記載内容と保健指導への一考察, 青森中央学院大学研究紀要,45-57, 2017.
  3. 内閣府:男女共同参画白書 平成30年版http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30 /zentai/html/honpen/b1_s00_02.html(2020.3.14アクセス)
  4. 小阪昌明:わが国における鉄欠乏,鉄欠乏性貧血女性の増加と栄養,四国医誌, 68(1,2)3-18, 2012.
  5. 厚生労働省:平成27年国民健康・栄養調査 血色素量の分布 - 血色素量の区分、年齢階級別、人数、割合 - 男性・女性、20歳以上[貧血治療のための薬の使用者含む] https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450171&tstat=000001041744&cycle=7&year=20150&month=0&tclass1=000001098375 (2020.3.14アクセス)
  6. 日本性教育協会:第8回を迎える「青少年の性行動全国調査」   https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/youth.htm(2020.3.14アクセス)
  7. 厚生労働省:年齢階級別にみた人工妊娠中絶実施率(女子人口千対)の年次数位 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/17/dl/kekka6.pdf
  8. 厚生労働省:性感染症報告数 https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html   (2020年3月14日アクセス)
  9. OECD: OECD.Stat, https://stats.oecd.org/index.aspx?queryid=30160# (2020.3.14アクセス)
  10. 飯島佐知子,他:平成30年厚生労働科学研究費補助金 女性の健康の包括的支援政策研究事業、女性の   健康の社会経済学的影響に関する研究、平成30年度 総括・分担報告書
  11. 守泉理恵.:第15回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書(全体版)図表II-3-4   子どもの有無・妻の年齢別にみた、不妊についての心配と治療経験.国立社会保障・人口問題研究   所.2017:47. http.//www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_reportALL.pdf(2020.3.14アクセス)
  12. 齊藤 英和, 齊藤 和毅:不妊治療と女性の健康を考える.公衆衛生.2015;79; 2; 99-103.
  13. 厚生労働省健康局総務誯 生活習慣病対策室:女性の健康支援対策事業等の報告とりまとめ https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/pdf/woman_torimatome.pdf (2020.3.14アクセス)

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