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仮眠30分で業務効率アップ
三菱地所が導入した「パワーナップ制度」とは?

従業員のパフォーマンス向上や健康づくりのために、睡眠改善の活動に取り組む三菱地所株式会社では、2018年から本社ビル内に仮眠室を設置し、「パワーナップ制度」を導入しました。就業時間内に仮眠室で30分まで仮眠が取れるというこの制度。導入に当たっては、単にハード面の整備だけでなく、管理職をはじめとした社員全体への啓発も重要だったようです。担当者である同社人事部の根神 剛さんに、制度実施の経緯や実際の利用状況なども含めて伺いました。

本社ビル移転をきっかけに、仮眠室と制度を整備

——御社が2018年から導入したパワーナップ制度の概要を教えてください。

概要としてはシンプルで、「就業時間中に1日30分までの仮眠をしていいですよ」という制度です。

元々当社のフレックスタイム制度では10時~15時をコアタイムとしていたため、その時間帯は基本的に昼の1時間の休憩しか認めていませんでしたが、パワーナップ制度導入以降は昼休憩の1時間とは別に30分まで仮眠をしてもよいということにしました。仮眠時間は休憩をつけることになっているので、勤務時間には含まれません。
※現在、コアタイムは廃止しており、就業時間中、休憩時間の制約は特になし。

——制度導入までの経緯についても教えていただけますか?

背景に本社移転というイベントがありました。2018年の1月に新しいビルに移転するに当たって、移転プロジェクトチームと我々人事部が主体となって働き方改革を本格的に進める中で、従業員の健康というより、どちらかというと生産性の向上という観点から仮眠室を作ろうという話が上がったことがきっかけです。

設計においては、睡眠改善支援のコンサルティングを行う会社に、リクライニングチェアの選定や睡眠・仮眠に関するセミナーの実施といった面で協力していただきました。

仮眠室は男女3ブースずつ、計6ブースあり、大きさはリクライニングチェアがちょうど収まるくらい。それぞれ内側から鍵がかけられる完全個室で、室内にはほぼフラットまで角度が調整できるリクライニングチェアとアルコールティッシュ、耳栓が置いてあります。照明も消せるので、真っ暗にすることも可能です。アロマも導入を検討しましたが、香りは個人で好き嫌いがあるのでやめました。

利用したい場合はオンラインで予約します。自分のスマートフォンとイヤホンを持ち込んで音楽などを聴きながら仮眠している人が多いですね。

——新オフィスに仮眠室を整備したいという提案に対して反対の声などはあったのでしょうか?

ありませんでした。発案から決定までは長くはかからなかったと思います。まずは仮眠室を整備して仮眠制度を始めてみよう、くらいの雰囲気で、上層部もそのあたりは目をつぶってくれたのかもしれません。それよりも、実際に移転した後に社員の意識醸成の方が大変でした。

多くの企業がそうであるように、当社も制度スタート当初は「今から仮眠室に行ってきます」と気軽に言えるような雰囲気ではなく、現在でも完全に社員の意識が変わったわけではありませんが、役員を始めとした社員への啓発を続けてきたことで少しずつ意識が変化していっているという状況です。

実際に使ってみると、眠いまま午後働くよりも、仮眠してスッキリした後働いた方が業務効率がいいと実感もしてもらえますし、他の社員が利用することに対する理解も得られやすいので、積極的に使ってもらうようにアナウンスを続けています。

仮眠できる雰囲気づくりのポイントとなった
フリーアドレス化

——他に、パワーナップ制度を社内で根付かせる上で工夫されたことはありますか?

パワーナップ制度がある程度機能している理由に、オフィス移転に伴ってフリーアドレス(※)化したことと、社員一人ひとりがフレキシブルにタイムマネジメントをしていることが挙げられると思います。
※フリーアドレス=オフィス内に固定席を設けず、各自が好きな席を選んで仕事をするワークスタイルのこと

それに伴って、昼休みなども各自が適宜時間をずらして取る文化も浸透してきて、これも追い風になっています。

実際に仮眠室を利用している社員は20代~50代まで幅広く、役員の中にも利用者がいるので、特定の年代が多いということはありません。男性の場合、1日あたり約10人が利用し、11:30から13:30くらいの間の利用率が高いですね。

オフィスのフリーアドレス化で管理職のマネジメント方法自体も変化せざるを得なくなりました。今はさらにリモートワークもできるようになっているので、部下が離れた場所で仕事をしているのが当たり前の状況です。

そういった環境下では、「サボっている」という意識を持たないようにしないとマネジメントが成り立ちません。仮眠などにいちいち口を出す「マイクロマネジメント」にならないようにすることも含めて、適切なマネジメントについては人事からも発信しています。

——実際、社員のみなさんはどのように仮眠室を利用しているのでしょうか?

仮眠室の予約は、個人のパソコンにインストールされているスケジュール管理ソフトで行います。予約すると自分のスケジュール画面上には予約時間に「仮眠室利用」と表示され、仮眠室のスケジュール画面上にはその時間に予約者の名前が表示されます。これで他の社員にも予約したことが分かるようになりますが、自分以外にスケジュールの詳細が分からないようにも設定できるので、このあたりは個人の裁量に任せています。夜遅くなってしまった翌日など、眠くなりそうなことが予め分かっているときに、前もって予約をしている社員もいます。

「もしどこに行っていたか聞かれたら、堂々と『仮眠室に行っていた』と言ってください」という話はしていますけれど、実際は打ち合わせなども含めて社員それぞれがバラバラに動いているので皆あまり気にしていないですね。

仮眠制度がうまく機能するためのポイントは、
職場の意識変革

——パワーナップ制度の効果についても教えてください。

数字として提示するような効果というよりも、眠気を我慢しながら午後5時間働くよりも、30分仮眠を取って4時間半働いた方が業務効率もいいし、生産性も上がるということは、経験者は効果として実感していると思います。

——今後、仮眠室の導入を検討している企業様に対して、アドバイスをお願いします。

仮眠室の使い勝手が悪くなる要因があるとしたら、やはり職場の雰囲気だと思います。仮眠室があって、制度も整備しているのに、雰囲気的に仮眠できないということだけは避けなければいけません。そこをどうコントロールするかが一番のポイントではないでしょうか。管理職など、上層部の意識が変わらないと難しいかもしれません。

まとめ

近年はリモートワークやワーケーションが市民権を得て、それに伴ってオフィスの在り方や社員の働き方を再検討している企業も少なくありません。その中で、就業時間中の仮眠を制度として取り入れることは、社員の自主性を育て、同時に旧来型の働き方やマネジメント方法も見直すきっかけになるのではないでしょうか。

三菱地所株式会社が実施しているパワーナップ制度はその好例です。ぜひ自社の健康づくりについても一度考えてみてはいかがでしょうか。

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