女性が生涯を通して、健康で充実した日々を過ごすためには、正しいカラダづくりが大切です。
食事、運動、健康知識…。正しい情報を身につけながら、自分のカラダのこと、一緒に見直してみませんか?
プロフィール
田中理恵さん
元体操日本代表・公益財団法人
日本体操協会理事
能瀬さやか先生
ハイパフォーマンススポーツセンター/国立スポーツ科学センター 産婦人科医・日本スポーツ協会公認スポーツドクター
女性が生涯を通して、健康で充実した日々を過ごすためには、正しいカラダづくりが大切です。
食事、運動、健康知識…。正しい情報を身につけながら、自分のカラダのこと、一緒に見直してみませんか?
元体操日本代表・公益財団法人
日本体操協会理事
ハイパフォーマンススポーツセンター/国立スポーツ科学センター 産婦人科医・日本スポーツ協会公認スポーツドクター
女子体操選手として活躍し、引退後は2児の母親でもある田中理恵さんと産婦人科医でスポーツドクターの能瀬さやか先生。田中さんの現在までの健康秘話を尋ねながら、女性の健康について、能瀬先生がやさしく解説します。やせすぎによる月経不順など女性特有の病気に気づくだけでなく、健康のために今日からできることを、対談を通じて語ります。
厚生労働省では、毎年3月1日から3月8日までを『女性の健康週間』と定め、女性の健康づくりを国民運動として展開しています。女性の健康に関する知識の向上、女性の健康課題の改善などを目的とし、国及び地方公共団体、関係団体などが全国規模でさまざまなイベントを開催しています。
近年、若い女性のやせすぎが問題視されています。その背景にあるのが過度な「やせ願望」や「ダイエット志向」です。本来、やせる必要がないにもかかわらず、無理なダイエットでやせている女性は少なくありません。世界的には肥満の増加が危惧されていますが、日本では女性のやせの割合が増えていることが問題となっています。
厚生労働省による国民健康・栄養調査(令和元年)によると、10代・20代女性の5人に1人、30代女性の6人に1人がやせすぎであることがわかりました。意外なことに、1日の食事摂取エネルギーは第2次世界大戦直後を下回っています。昭和25年(1950年)の日本人の全国平均は2098kcal/日でしたが、国民健康・栄養調査(令和元年)によると、20代女性の平均は1600 kcal/日、30代女性の平均は2081 kcal/日でした。若い女性の「やせ」は無月経や不妊症の原因にもなります。「やせ」はBMIで定義されており、BMIが18.5未満の場合を指します。
BMI(Body Mass Index)はボディマス指数と呼ばれ、体重と身長から算出される体格指数です。成人ではBMIが国際的な指標として用いられています。日本肥満学会の定めた基準では、18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」です。
上記リンク先「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」では、身長と体重を入力するだけで、BMIが自動的に計算されます。
月経周期とは、月経開始日から次の月経の前日までの日数のことをいいます。個人差がありますが、月経周期が25~38日であれば正常です。月経周期が39日以上の場合は希発(きはつ)月経といい、卵巣の働きが不十分なことが原因と考えられます。24日以内の場合は頻発(ひんぱつ)月経と呼ばれ、主にホルモン分泌の乱れが原因です。
月経不順は、健康な正常月経の女性でも、疲労やストレスが原因で短期的に起こることは珍しくありません。一方、無月経は婦人科ではよく見られる疾患ですが、やせすぎが大きな原因となっています。やせすぎると女性ホルモンのバランスが崩れ、無月経になるケースは少なくありません。無月経は将来の骨粗しょう症の原因にもなり、若い女性にとっては重要な健康課題といえます。
近年、生まれてくる赤ちゃんの体重が問題視されています。赤ちゃんの体重が2500グラム未満は低出生体重児、1500グラム未満は極低出生体重児と分類されています。2015年版「母子保健の主なる統計」によると、低出生体重児の割合は10人に1人と増加傾向にあります。一方、平均出生体重児は男女とも減少傾向にあります。原因の1つとして挙げられるのが、妊婦さんのやせすぎと低栄養です。若年女性のやせ傾向は赤ちゃんの体重にも大きく影響します。また、低出生体重児は将来、心血管疾患や生活習慣病リスクが高まる可能性があります。
国立成育医療研究センターの研究グループは、国立がん研究センターなどと共同で次世代多目的コホート研究(※1)によって、出生体重と成人期後期(40~74歳)の心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)リスク、及び生活習慣病(高血圧・糖尿病等)との関連を調べました。
その結果、成人期後期の心血管疾患の罹患率は、出生体重が3kg台の人と比べて、低出生体重児(出生体重が2.5kg未満)の人は1.25倍、極低出生体重児(出生体重が1.5kg未満)の人は1.76倍高いことがわかりました。さらに高血圧を経験したことがある割合は、それぞれ1.08倍、1.29倍。糖尿病を経験したことがある割合は、それぞれ1.26倍、1.53倍と高くなりました。この研究で、出生体重と成人期後期の生活習慣病の関連が明らかになっています。
※1
次世代多目的コホート研究=「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」(国立がん研究センター)。日本人の生活習慣・生活環境が、がんなどの生活習慣病とどのように関わっているのかを明らかにすることを目的とした研究です。2011年に始まり7県16市町村の地域住民11.5万人(研究開始当時40-74歳)を対象として行われています。
やせすぎは本来、カラダが必要とする栄養素を十分に得られていない状態です。健康にさまざまな悪影響を及ぼしますが、骨粗しょう症もその1つ。骨粗しょう症は骨密度が低下して骨がスカスカになり、骨折を起こしやすくなる病気です。閉経によるホルモンバランスの乱れが大きな原因ですが、骨の材料となるカルシウムや、カルシウムの吸収を促進するビタミンD不足も関係してきます。中年期以降、骨が脆くなどの原因となるので、若いときのやせすぎには注意が必要です。
骨粗しょう症は自覚症状に乏しく、骨折して初めてわかるケースも珍しくありません。骨折が生じやすい部位は腕の付け根、背骨や腰骨、手首、脚の付け根などです。高齢で脚の付け根を骨折すると、寝たきりの原因にもなりかねません。
骨粗しょう症について、もっと知りたい人は下記の「骨粗しょう症予防 骨活のすすめ」をご覧ください。
女性の本当の健康を考えるうえで、若い世代の「やせ」願望は大きな障害となっています。女性の「やせ」問題が改善しない背景には、適切な体形についての認識不足や、マスメディアなどによる「やせているほうがいい」という価値観の普及、氾濫したさまざまなダイエット法など種々の原因が影響していると考えられます。また、田中理恵さんのお話にもあったように、女性アスリートの「やせ」問題も看過できません。競技で勝つことも大切ですが、健康をこわしてしまったら元も子もありません。まず健康を維持し、そのうえで体重管理に取り組む。これが本当の意味で「自分のカラダと向き合う、適正体重の大切さ」ではないでしょうか。