健康寿命をのばそう SMART LIFE PROJECT
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弁当利用者が多い地域の健康課題解決に向けた
町役場と中食事業者の連携による
スマートミール弁当普及の取組

沖縄県南風原町役場

沖縄県南風原町は、持ち帰りの弁当・惣菜を利用して食事をとる人が多い地域で、高血圧や肥満などが町民の健康課題となっていました。そこで南風原町役場は、「お弁当をスマートミール化することで、町民の健康状態を改善できないか」と、活動を始めました。どのように事業者に働き掛け、地域にスマートミール弁当が広まっていったのか、南風原町役場の管理栄養士の具志堅志保さんに伺いました。
(画像・資料はすべて南風原町役場による提供)

具志堅志保さん(南風原町 国保年金課 健康づくり班 管理栄養士)
南風原町における中食事業者のスマートミール認証取得に向けた取組を推進。
南風原町が「スマートミール弁当」の普及に取り組み始めたきっかけを教えてください。
具志堅さん:沖縄県は65歳未満死亡率が男女共に極めて高く、その背景には生活習慣病があります。さらに突き詰めていくと高血圧、BMI25以上の肥満、メタボ該当者の割合が非常に高いという課題に行き当たります。こうした健康課題の解決に向け、食生活の面では「食塩・脂質を減らし、野菜摂取量を増やすこと」が重要な課題となっていました。
 南風原町は、健診を受診した町民の方に対し、結果にかかわらず個別の保健指導・栄養指導を行っています。その際に、「家庭では、こういう料理を作るようにしてください」とお伝えするのですが、近年、「家ではあまり食事を作らない。お弁当を買ってきて食べている」という声を聞くようになりました。というのは、南風原町は那覇市に隣接し、共働き家庭が多い地域で、2008年ごろから町内に24時間営業のスーパーができたり、コンビニや弁当屋が増え始めたりしたことで、中食の利用が進んだのです。沖縄県民の持ち帰り弁当・惣菜の利用頻度が高いことは、「県民健康・栄養調査」によってデータでも裏付けられているのですが、南風原町も同様で、家庭料理を前提とした栄養指導が生活実態からズレてきているという感覚をもつようになりました。
 このような生活環境の変化も踏まえて、「中食をうまく活用して食生活の改善を促す方法はないだろうか」と、漠然と考えていたところ、同僚からファミリーマートのスマートミール弁当のことを教えてもらいました。同僚は、2019年5月に福岡県で開催された臨床高血圧フォーラムのランチョンセミナーに参加した際に、そのお弁当のことを知ったのです。
 調べてみると、ファミリーマートのスマートミール弁当は、栄養バランスがとれていて、沖縄県内で販売されている一般的なお弁当とはかなり違っていました。県外出張の際に実際に食べてみると、「ボリュームも十分で、おいしい!」と感じました。
 沖縄県内のファミリーマートではスマートミール弁当を取り扱っていなかったこともあり、「それならば、“沖縄の味”のスマートミール弁当をつくり、地域に広めよう!」と考えたのです。
中食事業者には、どのような働きかけを行ったのでしょうか。
具志堅さん:2019年の6月から、さっそく取組を開始しました。はじめに商工会の協力のもとでスマートミールに関する勉強会を開くとともに、スーパー9店舗、お弁当屋さん43店舗を訪問しました。
 そのとき、「スマートミール認証という制度やスマートミールを知っていますか?」という形で、スマートミールの“考え方”を知っていただくことに力を入れました。その上で、南風原町民の健康データを提示して、食生活の改善が重要課題であること、町民の生活に持ち帰りのお弁当・惣菜が欠かせないこと、中食事業者さんたちが果たす役割が大きいことを伝えました。
 町内の事業者さんを回り切るだけで、1年半以上かかりました。それまで中食事業者のみなさんとは面識がなく、私たちが事業者さんの事情をよく理解していなかったこともあって、スマートミールに対する理解は、正直、なかなか進みませんでした。
 転機になったのが、2020年7月に日本高血圧学会の減塩・栄養委員会アドバイザーの方から、JSH減塩食品リストに掲載されている「減塩白だし粉末」のサンプルをいただいたことでした。この減塩白だし粉末を使って、減塩をしながらもふだんの家庭料理の中でどれくらいおいしく、たくさん野菜がとれるかを学習しようと思い、レシピづくりを町役場職員有志にお願いしました。レシピづくりに参加した職員は20代から50代までの男女16人です。それぞれの職員がふだん食べているメニュー、つまり、沖縄の家庭料理を減塩化するねらいがあったので、栄養の知識を持っている管理栄養士や保健師などはあえて参加しませんでした。その結果、野菜料理を中心に152品のレシピが集まりました。考案されたレシピは、その後、妊婦さんや高齢者の方の栄養指導教材などに活用しています。
 スマートミール弁当の開発を念頭に置いたレシピづくりではなかったのですが、この152品のレシピを、企業や役所などに仕出し弁当を配達している障がい者の就労支援事業所「てるしのワークセンター」さん(以下、「てるしの」。敬称略)に見てもらった後に改めて話をしました。てるしのからは、減塩白だし粉末を使うことでおいしさと減塩を両立させられることや、さまざまな野菜料理に応用できるということで、「これならできる」という返答が返ってきました。
 2020年10月には、10種類ものスマートミール認証基準に適合した弁当を開発し、販売が開始されました。町役場のみんなと一緒にいただきましたが、とてもおいしいお弁当でした。「たくさん野菜がとれて栄養バランスに配慮した、沖縄の人にとってなじみのある味のお弁当」が実際に作れるということを、てるしのが証明してくれたのです。
その後、スマートミール認証基準に適合したお弁当は、どのように広がっていったのでしょうか。
具志堅さん:てるしのが販売を開始したという情報を持って改めて事業者を訪問していく中で、町内に本社があり県内に10店舗を展開するスーパーの丸大さん(以下、「丸大」。敬称略)が、スマートミール弁当の開発に自発的に名乗りを上げてくれました。
 事業者はお弁当の開発、役場の管理栄養士は栄養指導(栄養計算や食品選択のアドバイスなど)という形で、お互いの専門性を生かして連携しながら取組を進めていきました。そして、丸大では2021年4月に、スマートミール認証の基準に合った4種類のお弁当の販売が開始されました。てるしののお弁当は企業・団体向けの仕出しで、一般の町民の目に触れることはほとんどありません。しかし、丸大が売り出してくれればスマートミールの認知度も一気に上がるのではないかと、丸大の発信力に期待しました。
 ただ、ひとつ心配だったのが、お弁当の値段です。沖縄の持ち帰り弁当の値段は398円が一般的で、それ以上の値段になると敬遠されます。丸大のスマートミール弁当は、4種類どれも458円で、売れ行きが心配でした。ところが、丸大の惣菜担当の課長さんが、「このお弁当は、たとえ売れなくても、町民の健康のため、粘り強く売り続けます」とおっしゃってくれました。
スーパーが熱心にスマートミール弁当の開発に取り組んだのは、なぜでしょうか。
具志堅さん:データの力が大きかったと思います。高血圧や肥満が健康に良くないことは誰もが分かっていて、そういった人を減らしたいと考えています。しかし、その深刻度や緊急性までは分かりません。そこで、沖縄県は「65歳未満の死亡率が高い」(※1)というデータや、「メタボリックシンドローム該当者・予備群の割合が多い」(※2)といったデータを用いて伝えたのです。データによって実情が「見える化」されたことで、真剣味を持って受け止めてもらえました。
 また、スーパーやお弁当屋さんに健康に配慮したメニューづくりをお願いするにしても、以前は「野菜を増やしてください。脂質は減らしてください」という漠然とした言い方しかできませんでした。それが、スマートミール認証の基準という数字の目安を得たことで、「野菜は140グラム以上」「脂質はエネルギー比の20〜30%」というように、具体的な話ができるようになりました。
 データを使うことで町民の健康課題を理解しやすくなり、さらに、スマートミールという一つの解を示すことで、事業者が健康課題の解決に向けて何ができるのかを考えやすくなったのだと思います。
 丸大の課長さんは、「スマートミール認証をきっかけに、健康増進や生活習慣病予防のための食事の目安を知ることができました。これから丸大は、町民の健康づくりの支えになりたいと考えています」と、おっしゃっていました。この話を聞いたときは本当にうれしかったですし、町役場の管理栄養士・保健師も喜んでいました。
※1:「人口動態統計」(厚生労働省)による
※2:「特定健康診査・特定保健指導に関するデータ」(厚生労働省)による
丸大のスマートミール弁当の売れ行きや、利用者の評判はどうだったのでしょうか。
具志堅さん:販売開始以来ずっと、好調な売れ行きが続いているようです。
 丸大は2021年4月から月間5,000食ペースで販売を始めましたが、販売開始当初から廃棄率ゼロが続き、2022年1月時点で商品ラインアップを4種類から12種類に増やしました。さらに、現在の月間約9,000食の販売ペースを、新商品の開発や集中調理センターの稼働により、2023年には月間3万食にまで引き上げる予定だそうです。
 丸大のスマートミール弁当が売れ続けているのは、「健康にいいから」だけではありません。やはり、おいしいからなのです。2021年8月にスマートミール弁当を購入した人にアンケートを実施したところ、48%の人が購入した理由に「おいしいから」と回答しました。
 丸大の看板メニューの一つになっている「沖縄煮つけ弁当」は、以前は398円でしたが、スマートミールにしたことで458円になりました。ところが、以前よりも売れるようになり、すべてのお弁当メニューの中で常にトップ3に入る販売数を記録しているそうです。いくら健康に良いからといっても、おいしくなければ売れる商品にはならないと思います。
スマートミール認証弁当の販売初日、丸大の売場の様子(2021年8月11日)
丸大で販売しているスマートミール弁当の中でナンバーワンの人気を誇る「沖縄煮つけ弁当」。
てるしのと丸大のお弁当は、いつスマートミール認証を取得したのですか。
具志堅さん:2021年の8月に、てるしののお弁当10種類と丸大のお弁当4種類がスマートミール認証を取得しました。
 認証取得直後には、てるしの、丸大のみなさんが、その報告のため町長を表敬訪問しました。この訪問が地元のメディアに取り上げられ、スマートミール認証取得の宣伝にもなりました。
スマートミール認証取得を報告するため、丸大、てるしのの関係者が南風原町の赤嶺正之町長を表敬訪問。
 このとき、町長がスマートミール認証弁当の普及を町として支援することを表明しました。また丸大は、さっそくスマートミールのロゴマークを使ったのぼり旗を作成し、南風原町店の外周道路沿いや店舗正面に掲げてPRしています。
丸大の店舗では、外周道路沿いや店舗入口にのぼり旗を立ててスマートミール弁当をPR。
南風原町におけるスマートミール普及の取組は、2021年11月に開催された「第10回 健康寿命をのばそう!アワード」で厚生労働省 健康局長 優良賞を受賞しました。そのことに対する反響や影響はありますか?
具志堅さん:恥ずかしい限りなのですが、てるしの、丸大でスマートミール弁当を販売していることは役場の職員の多くが知っていたものの、起点となった「地域の健康課題」と、なぜこの取組を行っているのかという「目的」をきちんと説明していなかったのです。それがアワードを受賞したことで、職員はもちろん、地元の企業やメディア、そして町民のみなさんからも注目していただけるようになり、地域の健康課題や取組の目的についても理解が広まりました。
 アワード受賞直後の2021年12月には「食環境整備取り組み報告会」が開かれ、町長、スマートミール認証事業所の方々、町社会福祉協会議の職員、町役場の部課長が集まりました。ここで一連の取組を報告するとともに、町の食環境整備に向けてスマートミールを積極的に活用していく方針などが確認・共有されました。アワード受賞によって、食事を通じた健康づくりの機運が一気に高まったと感じています。
2021年12月に行われた「食環境整備取り組み報告会」の様子。赤嶺町長、役場の部課長職員・関係職員、スマートミール認証を取得した事業所の関係者ら約50人が参加。
町の食環境整備に向けた現在の取組、今後の展望について教えてください。
具志堅さん:生活習慣病の予防や重症化を防ぐため、特に働き盛り世代とそれ以下の若い世代に、より良い食習慣を身につけてもらいたいと考えています。具体的な取組としては、特定保健指導の中でスマートミール弁当を活用していくことや、減塩調味料を地域に広めていくための活動をスタートしました。また、母子向け・成人向けの食の学習会や、社会福祉協議会の各種の集まりなどでもスマートミールの活用を図っています。
 最初にお話ししたように、南風原町民の暮らしの中でお弁当は欠かせないものです。てるしの、丸大でスマートミール弁当が販売され、日常の中で健康な食事の選択肢が増えたことを、多くの町民が喜んでくれています。地域をより良くしていくことは行政の役割で、現在進めている食環境整備はその一つだと思います。引き続き、健康な食事の選択肢を増やしていくとともに、栄養バランスがとれた食事の大切さを理解してもらうことで食習慣を改善し、町民の健康課題の解決、健康寿命の延伸につなげていきたいと考えています。

〈てるしのワークセンター 担当者の声〉

職場に届けるお弁当をスマートミール化し、働く世代の健康づくりをサポート
 町役場の方から町民の健康状態のデータを見せていただき、沖縄県の65歳未満の死亡率が全国1位であることや、65歳未満で生活習慣病を悪化させて介護を受けている人がいるといったことを初めて知り、生活習慣病予防の取組が不十分であることを認識しました。てるしのは、企業などの職場のランチタイムにお届けするお弁当を販売しています。お弁当を通して働く若い世代の健康づくりのお手伝いができるのであれば、協力しなければならないと考えました。
 開発で難しかったのは、調味料の厳格な計量でした。さらに、それまでの根菜類を多く使ったメニューから葉野菜を多く使うメニューに変更したことで、コストと調達の調整に苦労しました。減塩のために調味料も変えましたので、お客さまにその味を受け入れていただけるかどうかも、気になっていました。
 それでも、さまざまに工夫した結果、これまでと変わらない家庭的な手作りの“てるしのの味”を守りつつ、生活習慣病予防につながり、健康づくりの手助けとなるお弁当を、10種類完成させることができました。召し上がったお客さまからは、「毎日食べても飽きない。変わらずおいしい」「体重が減った」「健康意識が芽生えた」など、高い評価をいただきました。
 スマートミール認証を受けたことで、なお一層の責任感と使命感を持って、町民のみなさんの健康づくりに貢献するべく、てるしのの変わらず家庭的、健康的なおいしいお弁当をお届けしていかなければならないと思っています。

〈丸大 担当者の声〉

目指したのは「健康」「おいしさ」「値頃感」のすべてを達成するお弁当
 スマートミール弁当の開発に取り組んだきっかけは、南風原町役場の学習会で健康課題のデータを見たことでした。全国平均と比べて野菜や魚の摂取量が少なく、脂質の摂取量は多い。そのため、沖縄県は全国一肥満が多い県で、65歳未満の死亡率が全国平均を上回っていることを知りました。こうした実態を前にして、地域住民のみなさまのために何かできることがないか、やるべきことがあるのではないかと考え、スマートミール弁当の開発に取り組むことを決めました。
 開発の上で特に重要だと考えたのは、次の3つです。まずは「健康」で、スマートミール認証の取得を目標にしていました。次に「おいしさ」で、健康的なお弁当であっても、おいしくなければ継続できません。最後が「値頃感」で、健康的でおいしいお弁当であっても、価格が高すぎては継続できません。
「健康」「おいしさ」「値頃感」という3つの目標をすべてクリアするために、町役場のみなさんとは何度も打ち合わせをしました。
 おかげさまでスマートミール弁当をお買い求めいただいたお客さまからは、「こういうお弁当を待っていた」「家族に食べさせたい」といったご意見をたくさんいただいています。売場の担当者にお声掛けいただくこともあり、従業員の励みにもなっています。今後も、地域の生活に根差したスーパーとして、健康的な食環境づくりに貢献してきたいと思っています。