健康寿命をのばそう SMART LIFE PROJECT

健康寿命をのばそう!アワード

「第7回 健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 企業部門 優秀賞 受賞目指せいきいき健康家族!
~ライフスタイルに合わせた主婦健診のベストミックス~

ヤマトグループ・ヤマトグループ健康保険組合

※写真はイメージです

保険者にとって、被保険者である社員の健康増進はもちろん、その家族の健康づくりも重要な課題です。
ヤマトグループとヤマトグループ健康保険組合は、被扶養者である社員の妻の健康診断受診率向上のため、
ライフスタイルに合わせて選択できる4種類の健診メニュー導入などの各種施策を展開し、
「第7回健康寿命をのばそう!アワード」の厚生労働大臣 優秀賞 企業部門を受賞しました。
今回は、ヤマトグループ健康保険組合の福田岳志事務長と岩本和雄マネージャーに、
どのように取組を進めてきたのか、お話を伺いました。

――社員の家族に健康診断の受診を促す取組は、いつごろから、どのような課題意識に基づいて始めたのでしょうか。

福田岳志氏(以下、福田氏):当健保組合では、被保険者である社員の定期健康診断、特定健康診断の受診率は、長年どちらもほぼ100%なのですが、特定健診対象となる40歳以上の被扶養者受診率は20%台と低い状況でした。健診は、健康増進の取組を進める上でベースとなるので、たくさんの方に受けていただきたいところです。また、各種疾病の早期発見という点でも、被扶養者の受診率向上は喫緊の課題だと受け止めていました。

ヤマトグループ健保組合の40歳以上の被扶養者は9割以上が奥様(主婦)であるため、奥様(主婦)の受診率を向上させる取組が必要と考えました。

そこで2009年から、特定健診の対象となる40歳以上の被扶養者約2万7,000人の健診受診率を向上させるため、特に主婦の皆さまの目線から受診を促す取組を始めました。

ヤマトグループ健康保険組合の福田岳志事務長(前列右)、岩本和雄マネージャー(前列左)、職員の皆さん(後列3人)

最初の数年は、案内をするだけで受診率は伸びていき、2012年度には2009年度の約2倍の45%になりました。しかし、2014年度には下がってしまったので、周知するだけではなく、取組を工夫する必要があると感じたのです。そこで、健診を受診していない被扶養者に、なぜ健診を受けないのかヒアリングを行いました。すると、「多忙のため」「家事や育児、介護で時間が取れない」という声が多く、また、「近隣に受診できる会場がない」「受診の方法が分からない」「健康なので受ける必要がない」という声も寄せられました。

つまり、受診率が伸び悩んだのは、「指定した期間に、この会場で健診を受けてください」という画一的で健保組合目線の健診に問題があったと分かったのです。そこで、個人の都合や事情、希望に合わせて受診できるよう、ヒアリング結果を踏まえて、「①しっかり」「②ささっと」「③お手軽」「④家族一緒に」と4種類の健診コースを設けることにしました。これが、「ライフスタイルに合わせた主婦健診のベストミックス」というわけです。

4種類の健診メニューを選べる仕組み(提供:ヤマトグループ健康保険組合)

――4種類の健診コースの内容について、具体的に教えてください。

岩本氏:①は施設型の健診で、全国約1,000の契約医療機関で受診できます。血液検査で32項目測定でき、大腸がんや乳がん、ピロリ菌の検査もできます。「整った施設で、なるべく多くの検査項目を受診したい」という方に適しています。

②は主に巡回型の健診で、ホテルや市民会館などに検査機器を設置し、全国で1,800回以上実施しています。「土日に受診したい」「待ち時間を短くしたい」という方におすすめしています。

③は集合契約健診で、健保連が提携している全国約5万カ所の医療機関で受けられます。自宅近くの医療機関、かかりつけ病院でも受けられ、受診券を持っていくと、その場で健診してもらえる仕組みです。血液検査の8項目のみと少ないですが、「自宅近くでお手軽に」という方に向いています。

④はヤマトグループ社員の定期健康診断会場で、ご家族と一緒に受診することができます。

アンケートや利用者の実態を踏まえて、健診の受診場所などを改善(提供:ヤマトグループ健康保険組合)

4つのコースの会場や検査項目は、忙しい主婦がそれぞれのライフスタイルに合わせて選べるよう、アンケート結果や受診状況を元に改善を図っています。その結果、受診率は、2017年度には52.4%と、2013年度の40.1%から12.3ポイント向上しました。また、この間に、健診を5年以上受診していない人を1,343人減らすこともできました。「主婦目線」で選択肢を提供したことが、結果に表れたのだと思います。

経年の取組によって、年代によって選ぶコースに傾向があることも分かりました。40代の方は「検査項目が多い方がお得」と①を選ぶ方が多く、50〜60代になると「項目は少なくても、近所でさっと済ませたい」という方が多い傾向があります。また、40代、50代、60代と年齢が上がるにつれ、受診率は上がります。こうしたデータも活用しながら、より効果的な施策を検討しています。

被扶養者の特定健診受診率の推移(2013年~2017年)(提供:ヤマトグループ健康保険組合)

――受診環境の整備に加え、対象者にさまざまな方法で受診勧奨や周知をされているとのことですが、どのように取り組まれているのか、お聞かせください。

岩本氏:まずは健診の重要性を知ってもらうことが第一だと考えています。「健康だから」「忙しいから」と受けない方はまだまだ多いので、「健康でも、忙しくても、受ける必要がある」と思ってもらえるようなアプローチが大切です。例えば、健診を受けている方と受けていない方とでは、その後の医療費に差が出る傾向があります。自覚症状が出てから病院に行くのではなく、健診を受けることで、病気やその兆候を早期発見でき、重症化の防止につながるからです。このような具体的な事例、数字などを強調し、対象者が受診したくなるような呼びかけを意識しています。

また、年間スケジュールを組んで時期ごとに周知活動をしています。毎年6月に案内の冊子を送り、夏から秋にかけては受診勧奨のハガキを送ったり、未受診の方には電話をかけたりしています。以前は受診勧奨のチラシを封書で送っていたのですが、封書だと開けてもらえないこともあるので、圧着ハガキに切り替えました。ハガキのデザインや情報量を工夫して送るようにしています。

現在39歳で次年度から特定健診の対象になる方には、2月頃に案内を送っています。受診の動機付けとして、40歳は乳がんとピロリ菌の検査を無料にしています。また、大腸がん検査は全年齢の対象者が無料で受けられるようにしています。これらをアピールして、まずは健診を受けてもらい、次年度以降も継続受診してもらえれば、と思っています。

さらに、対象者を「毎年きちんと受けてくれる方」「2〜3年ごとに受診する方」「数年間受けていない方」「新規の被保険者」とカテゴリー分けし、それぞれの層に響くように受診勧奨のハガキを工夫しています。2~3年ごとに受診する方には毎年受けてもらえるように、数年間受けていない方にはやや厳しいメッセージで、デザインもモノクロでシリアスな雰囲気のハガキを送付するといった試みを行っています。

――受診勧奨の一環として、子供向けの冊子も制作・送付されているそうですが、どのようなきっかけや目的で始めたのでしょうか。

福田氏:「子供に『タバコをやめて』と言われたのでやめた」「子供に『健康診断を受けて』と言われたので受けた」という話をよく耳にするので、行動変容のきっかけになるのでは、と始めました。子供向けの冊子は、健保組合の機関紙に同封して送っています。

未受診者のへのアンケートでは、「家族のために時間が取れないので、受けられない」という方が少なくないのですが、そういう方に「健康でいることが家族のため」と思ってもらえればと考えています。

この冊子は生活習慣や食、睡眠、歯などをテーマとして取り上げ、大学と連携して作成しています。最近は、新型コロナウイルスの流行であらためて注目が高まっている「免疫」についても取り上げました。子供の健康意識が高まり、それが親に伝わればうれしいです。

子どもがいる家庭には、健康をテーマにした小学生向けの冊子を送付(提供:ヤマトグループ健康保険組合)

――その他、受診機会の提供、周知に関して取り組んでいることはありますか。

岩本氏:2016年にインセンティブを導入し、無料で受診できる検査を増やしました。例えば、乳がん検診、ピロリ菌検査を40歳の時に無料で受けられるようにました。これにより、40歳の受診率が高まったので、乳がん検診を45、50歳でも無料にし、底上げを図っています。また、女性の死亡原因として大きな割合を占める大腸がんについては、全年齢の対象者が無料で検査を受けられるようにしました。

今後も、インセンティブを活用して各年代の受診率アップを図っていきたいと思います。ただ、費用がかかりますし、効果を見ながら検討していく考えです。

――一連の取組を進めていく中で、大変だったことや苦労したことがあれば、教えてください。

福田氏:案内を一度送れば、すぐに受診してくれる訳ではない、ということです。特に、健康診断に関心が低い方への周知には苦労しています。健診の重要性、受診の必要性について、封書やハガキ、DM、電話などさまざまな方法を使い、粘り強く、ご案内しています。対象者本人に対してだけではなく、被保険者である夫や子供にも周知して受診を促すなど、さまざまな方法で受診勧奨をしています。

また、取組を進める上では、会社との協働も重視しています。当健保組合は、被保険者14万人、被扶養者13万人で計27万人の加入者がいますが、健保組合の職員は30人で、そのうち保健事業担当職員は6人です。一方、被保険者は全国各地の多数の拠点にいます。事業主の特性から、日中はドライバーとして運転している人が多く、周知するだけでもなかなか難しい部分があります。そのため、会社と連携して各保健事業を推進しています。

――今後の目標や取り組んでいきたいことについてお聞かせください。

岩本氏:ここ数年、被扶養者の受診率は52~53%で横ばいが続いており、まだまだ上げていく必要があると考えています。国が2023年度の目標値として設定している単一健保組合の特定健診受診率90%を達成するためには、より一層の工夫が必要です。当健保組合では、ヘルスリテラシーを高めてもらうことが重要だと考え、健保組合ホームページのリニューアルやSNSの活用などを検討しているところです。

福田氏:2020年度の健診受診率は、新型コロナウイルスの影響で伸び悩んでいます。また、感染防止を考え、必要な人が医療機関に行くのを控えている傾向も見られます。

コロナ禍においては、健診の受診勧奨だけではなく、保健事業全体が進めにくい状況です。しかし、健診による病気の早期発見は非常に大事です。さまざまな数字や状況を分析し、時代に合った健診の受診勧奨を含めて保険事業全体を推進していく必要があると考えています。

――最後に、企業や団体、自治体などで社員や生活者らの健康づくりに取り組んでいる担当者へメッセージをお願いいたします。

福田氏:健康診断も、保健事業も、被保険者のライフスタイルに合わせて展開することがポイントだと思います。 今回お話しした「ライフスタイルに合わせた主婦健診のベストミックス」は、他の保険者にも横展開可能なモデルとしても評価していただき、受賞することができました。被扶養者の健診受診率が課題となっている保険者さんにとって、解決のヒントになればと思います。

※記事中の部署・役職名は取材当時のものです。