- TOP
- 健康寿命をのばそう!アワード
- 第9回健康寿命をのばそう!アワード 担当者が語る!受賞取組事例 インタビュー
第9回 健康寿命をのばそう!アワード
開催日:令和2年11月30日(月)
「第5回 健康寿命をのばそう!アワード」 厚生労働大臣 最優秀賞 受賞「健康わくわくマイレージ」を中心とした健康増進施策
SCSK株式会社(東京都)
行動習慣の改善と健康診断結果に応じてインセンティブが得られる仕組み
「健康わくわくマイレージ」を導入し、「第5回 健康寿命をのばそう!アワード」で
厚生労働大臣最優秀賞を受賞したSCSK株式会社(東京都)。
中長期的な健康増進施策の立案・実施のポイント、経営トップのリーダーシップと
健康経営推進体制のあり方について、SCSK株式会社の
杉岡孝祐氏(ライフサポート推進部 副部長)にお話を伺いました。
――SCSK株式会社(以下、SCSK)では、2015年の「健康わくわくマイレージ」の開始以前より、健康増進施策を進めています。どのような経緯から、一連の取組を始めたのでしょうか。
杉岡孝祐氏(以下、杉岡氏):2010年の本社移転及び2011年の経営統合(住商情報システム株式会社と株式会社CSK)が大きな転機でした。まず、社員の健康づくりに取り組むべく、2010年にオフィスを一新することにしました。具体的には、食堂、社内診療所、リラクゼーションルーム、カフェテリアの設置や拡充など、ハード面の環境整備です。その後経営統合した当社は、新たな経営理念のもと、健康への取組をさらに加速させました。
ソフト面では、まず、喫煙対策と運動不足の解消に取組ました。喫煙対策としては、禁煙治療の自己負担分の費用を全額会社が補助し、禁煙を達成した場合には福利厚生ポイントを付与する「禁煙サポート」を始めました。運動不足を解消するための施策としては、歩数計を配付し、歩数に応じた福利厚生ポイントを付与する「ウォーキングキャンペーン」を実施しました。種目をウォーキングにした理由は、全社員が対象となる健康増進施策を実施したかったためです。
続いて取り組んだのが長時間労働の是正です。長時間労働の問題は、IT業界全体の課題と言えますが、以前は当社も長時間働く人や休まない人が良いとされる風潮がありました。しかし、経営トップが「このままでは会社や業界、ひいては日本社会全体に悪い影響を与える」という危機感を示し、残業時間の削減と有給休暇の取得を推進していくことになりました。これを受けて、2013年にスタートしたのが「平均残業20時間以下/月」と「有給休暇取得日数20日」を目指す「スマートワーク・チャレンジ20」です。
当初は、管理職を中心に「そんなことをしたら業績が悪化する」といった意見や、一般社員からは「残業代が減るのは困る」といった声など、異論や不満が噴出しました。しかし、経営トップが「業績が悪化してもやり切る」という強い決意を示し、その決意や取組の必要性についてイントラネットなどを通じて毎週のようにメッセージを発信しました。そして、できるだけ多くの社員が積極的に取り組んでくれるよう、浮いた残業代を社員に全額還元する仕組みとしました。
その結果、平均残業時間は2013年度が22時間/月だったところ、2014年度には18.3時間/月と順調に減少、また、年次有給休暇の取得日数においては2013年度が18.7日のところ、2014年度は19.2日と増加し、目標をおおむね達成することができました。また、当初懸念していたような業績への悪影響はなく、むしろ向上し続けていて、現在の営業利益は施策開始前と比べ、2倍以上に伸びています。
一連の取組はメディアにも取り上げられました。社外から注目されたことで、社員がより積極的に取り組むようになったと思います。一方で、2014年に行った「健康に関するアンケート」から、健康リテラシーや基本的な生活習慣に課題があることが分かったため、より長期的かつ総合的な健康増進施策として、「健康わくわくマイレージ」をスタートさせることになったのです。
――「健康わくわくマイレージ」の目的や仕組みについて教えてください。
杉岡氏:「健康わくわくマイレージ」の主な目的は、健康に良い行動習慣の定着と、生活習慣病の予防につながる健診結果の改善によって、社員一人ひとりが60歳以降も健康に働き続けられる基盤をつくることです。基本的な仕組みは、健康に良い行動を実践したり、健診結果が前年度よりも良好な値であるとポイントが付与され、年間の獲得ポイント数に応じてインセンティブを支給するというものです。
健康に良い行動を習慣化してもらうために、目標は日次・年次で設定しています。日次目標にはウォーキング・睡眠(記録&習慣)・アルコールの制限などの項目が、年次目標には歯科健診の受診・感染症予防などの項目があり、それぞれの目標を達成するとポイントが付与されます。健診結果は、肥満・血中脂質・糖代謝・肝機能・血圧の5つのカテゴリー(11項目)について、日本人間ドック協会の基準と産業医意見をもとに設定された基準をクリアした際にポイントが付与されます。
施策のねらいは、行動習慣を見直してもらうことなので、日次目標・年次目標を達成していれば、仮に健診結果が悪化していても、再検査の受診や特定保健指導を受ければインセンティブを支給する設計にしています。連続達成年数に応じた「継続ボーナス」もあります。
再検査の受診をインセンティブの支給条件にしているのは、「健診を受けて終わり」にしないためです。インセンティブは6月の夏季賞与に反映しているのですが、健診の結果が出るまでには時間がかかるので、11月までの健診受診と、再検査などの事後処置を年度内に完了するよう勧奨しています。
――「健康わくわくマイレージ」には初年度(2015年度)から、社員の99%と多くの人が参加していますが、参加を促すためにどのような工夫をしたのでしょうか。
杉岡氏:これは、「スマートワーク・チャレンジ20」で得た教訓なのですが、「個人向けのインセンティブだけだと、やる人はやるけど、やらない人はまったくやらない」ということです。そのため、「健康わくわくマイレージ」では、インセンティブを個人単位と組織単位の二重構造にしました。組織におけるポイント数が一定以上であれば、所属するメンバー全員にインセンティブが支給されるという仕組み(現在は廃止)にしたので、「自分は関係ない」とは言えないわけです。
この施策によって、99%という高い参加率を実現できたのですが、一方で、初年度目標を達成した人の割合は45%にとどまりました。インセンティブの原資は1億円あったので、達成率が低かった分、一人当たりの支給額は多くなり、中には10万円を超える人もいました。この情報をイントラネットなどで伝えたところ、「取り組まなきゃ損だ!」と口コミが広がり、翌年度に目標を達成した人の割合は71%に上昇しました。
インセンティブと組織ぐるみの施策によって、多くの社員が積極的かつ継続的に取り組むようになりましたが、一方で長年続けていると、飽きさせない工夫も必要になります。そこで最近は、健康保険組合にて活動量計のプレゼントキャンペーンを実施しました。この活動量計は、歩数と睡眠時間を入力画面に自動連携することも可能です。また、当社のグループ会社で作っている無農薬野菜があたる「わくわく賞」など、お金以外のインセンティブも始めました。
――健康づくりに関わる体制について教えてください。
杉岡氏:当社では、2015年に経営トップが「健康経営推進最高責任者」に就任し、本格的な健康経営に踏み出しました。現在、健康経営推進最高責任者は取締役会長となっており、専門部署としての「ライフサポート推進部」が健康増進施策の企画を担っています。施策の実施・運用は、人事部・労務部・人材開発部などの人事関連部署や、健康保険組合、さらには従業員で構成する「働きやすい職場づくり委員会」などと連携しながら進めています。
ライフサポート推進部による取組の一つとして、イントラネットに月1回、健康経営推進最高責任者のメッセージを発信しています。そのために健康経営推進最高責任者と毎月ミーティングを行っているのですが、情報や課題を共有する場にもなっています。次年度の施策や予算は、ライフサポート推進部が立案し、人事担当役員を通して経営会議に提案します。健康保険組合とも月1回ミーティングを実施し、健診、再検査、特定保健指導などの周知や受診勧奨について、効果が最大化するよう、役割分担しながら進めています。また、本社の健康経営の考え方や健康づくり施策をグループ全体に行き渡らせる役割もあります。
――「健康わくわくマイレージ」を実施したことで、社内外にどのような変化がありましたか。
杉岡氏:健康に良い行動習慣が身に付いてきたと思います。ウォーキングを実施している人の割合、運動習慣がある人の割合、朝食をとる人の割合など、指標にしているすべての項目が向上しています。また、健康に対する意識の変化についてアンケートを実施したところ、「自分が健康を意識して維持していくことが、自分と家族の幸せにつながると実感している」「心身のコンディションを整えることが、仕事と生活のより良いパフォーマンスにつながると実感している」などの項目で、ポジティブな意見が増加しています。
あと、単純に健康経営の影響とは言い切れませんが、新卒採用や取引先とのコミュニケーションも良い方向に向かっていると感じています。以前と比べると、内定辞退者は確実に減りました。他社の人事担当者から健康経営に関する講演やヒアリングを依頼されることもあり、できる限りご協力させていただいています。
――SCSKの健康経営や健康増進施策は、「第5回健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 最優秀賞だけでなく、経済産業省と東京証券取引所による「健康経営銘柄」に7年連続で選定されるなど、各方面から高い評価を受けています。成功させるポイントはなんでしょうか。
杉岡氏:一番は、経営トップの強い決意と覚悟。そして、段階的に施策を進めていったことだと思います。
健康経営の取組が始まって以来、経営トップはぶれることなく、ことあるごとに健康の重要性について、役員会で言い続けてきました。役員会の内容はイントラネットで社員に共有され、しかも、回を追うごとに健康経営や働き方改革にまつわる発言が増えていきました。取引先やパートナー企業、社員の家族には、健康経営への協力を依頼する手紙もお送りしました。すると、最初は健康経営に懐疑的だった社員にも、会社の本気度が伝わっていきました。その上で、健康経営や働き方改革によって浮いた残業代を、会社の利益とするのではなく、社員に全額還元すると具体的に示したことも効果的でした。インセンティブに割り当てている予算は、残業代として計上していたお金なので、会社としては追加でお金がかかっているわけではないのです。この合理的なサイクルが功を奏したのだと思います。
経年の取組によって社員の理解が深まり、「自分自身の習慣や行動をより良くするためには、どのようにすればよいか」と考えるようになり、健康リテラシーも身に付いてきました。健康に対する積極的な姿勢が社風として定着しつつあり、就業規則にも健康に関する指針を明記しているので、経営トップや健康づくり担当者が変わっても受け継がれていくでしょう。当社では、これらを大切な「無形資源」ととらえています。
――現在の課題はなんでしょうか。
杉岡氏:2015年度から「健康わくわくマイレージ」を行ってきて、行動習慣の改善には一定の成果がありましたが、健診結果に反映されてくるのは2020年度以降だと考えています。私たちは、最初の5年間を「定着」を目的とした第1ステージ、2020年度以降の5年間を「拡充」を目的とした第2ステージと位置付けています。現在は、健康保険組合と連動し、さまざまな数値を分析しながら、グループ会社全体も視野に入れた健康増進施策を企画しているところです。
あと、施策の内容や仕組みをできるだけシンプルに、分かりやすくするための見直しも必要だと思っています。2018年度に「健康わくわくマイレージ」の個人インセンティブ達成者が大幅に減ってしまったのですが、これは、新たなルールや仕組みをあれこれと導入したことで複雑になってしまったことが原因でした。現在も、各自が日々の数値や健康行動を専用のシステムに入力する際に、「うまく入力できない」「手間がかかる」といった意見が挙がっているので改善する必要があります。とはいえ、すべてが自動的に計測・記録される仕組みだと、“健康行動を意識する機会”がなくなってしまうので、ある程度の不便さというか、意識的に入力を促す仕組みは必要だろうと考えています。実際、活動量計を利用していても、自動記録ではなく意識的に手入力を選択している人もいます。
――健康づくり施策を展開していく上で、新型コロナウイルスの影響はいかがでしょうか。
杉岡氏:新型コロナウイルスについては、二次的な影響も含めて注視しています。在宅勤務が増えたことで活動量がかなり減少しており、1か月の平均歩数は新型コロナウイルス流行前の約9,600歩から7,000歩台に減りました。プレゼンティーイズムの発生要因にも変化が見られ、首や肩のこり・腰痛を訴える人が大幅に増えた一方、疲労や睡眠の不調を訴える人は減っています。メンタルヘルスに関しては、カウンセリングルームの相談件数が増加傾向にあります。オンライン対応になったことで相談しやすくなったことが原因とも考えられますが、在宅勤務でセルフケアの重要性が高まっていることは確かなので、相談内容などを分析しながら対策を検討しているところです。
――最後に、SCSKと同じように社員の健康づくりに取り組んでいる担当者に向けてメッセージをお願いします。
杉岡氏:会社の健康づくり活動に多くの社員を巻き込んでいくためには、経営トップの決意と覚悟、担当者の熱意が重要だと思います。当社は、経営トップが「社員の健康がなにより大事だ」というメッセージを何度も発信し続けたことで、会社の本気度が社員に伝わりました。「歩きなさい」「歯を磨きなさい」「お酒はほどほどに」というのは、ある意味でプライベートなことに口出しする“お節介”なので、担当者も粘り強く社員に説明しました。そうした地道な活動を進めていったことで、「やってみよう」と納得・共感してくれる社員が少しずつ増えていき、一緒に成功事例をつくったことで「やればできる!」というムードが広まっていきました。時間はかかっても、必要なステップを一つひとつ着実に踏んでいくことで、全社的な健康づくり活動は実現できると思います。
※記事中の部署・役職名は取材当時のものです。