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国立研究開発法人
国立成育医療研究センター
周産期・母性診療センター
母性内科 診療部長
妊娠と薬情報センター兼務
プレコンセプションケア
センター責任者
荒田尚子先生

子どもから大人まで、幅広い年代の男性・女性を対象とした、健康支援の教材開発に取り組んできた荒田尚子先生。2015年には日本初の「プレコンセプションケアセンター」を国立成育医療研究センター内に設立し、女性の健康支援のために精力的な活動を続けています。今回は、年齢問わず、皆さんにぜひ知ってほしい、「プレコンセプションケア」についてお話しいただきました。


「プレコンセプションケア」を知っていますか?

私は現在、女性と男性の多様なライフステージや価値観などに応じたさまざまな健康支援の取り組みを行っています。そして、なかでも新しい概念である「プレコンセプションケア」を浸透させる重要性を強く感じています。

プレ(pre)は「〜の前の」、コンセプション(conception)は「受精・懐妊」で、プレコンセプションケアは「妊娠前の健康管理」という意味。WHOは2012年に「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しています。

プレコンセプションケアの目的は3つあります。
①若い世代の健康を増進し、より質の高い生活を実現してもらうこと
②若い世代の男女が将来、より健康になること
③ ①の実現によって、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やし、次世代の子どもたちをより健康にすること

プレコンセプションケアは、近々妊娠したいと考えている女性だけでなく、思春期以降、妊娠可能な年齢の全女性に必要なもの。そして、女性の健康を支えるパートナーやご家族、企業の健康支援のご担当者様にも知っていただきたいことです。

プレコンセプションケアを広める必要性

日本では、医療の発展によって妊婦死亡率や周産期死亡率(妊娠満22週以後の死産と生後1週間以内の死亡を合わせた死亡率)は劇的に減りました。しかし、女性が持つリスク因子が原因とされる先天異常、低出生体重児等は減っていません。

リスク因子としては、やせや肥満、喫煙、持病、高齢などが考えられており、これらに該当する女性が妊娠した場合、流産、早産、2500g未満の低出生体重児、先天異常などの発生頻度は、通常よりも高くなります。胎児の心臓は受精後22日で拍動を始め、神経管は受精後28日までに閉鎖するので、妊娠に気づいてからリスク因子のケアを始めるのでは遅いのです。

女性には、妊娠前から自身の健康状態やリスク因子を把握して、早めにケアを始めてもらうことが大切です。また、持病などによって妊娠が難しい人も、プレコンセプションケアによって妊娠の道を探ることができます。



みんなに知ってほしい「女性が健康でいるための生活習慣」

プレコンセプションケアは妊娠だけに関わる話ではありません。若い世代が自ら健康管理できるようになることは、生涯にわたって「質の高い生活」を送ることにもつながります。「若いから無理をしても大丈夫」ではなく、「若いからと油断せず、健康を促進するべき」という認識を持つことが大切です。



以下に紹介する「女性が健康でいるための生活習慣」は、女性自身が実践することはもちろん、家族や職場の方等、周囲の皆さんにも知っていただき、女性の健康を支援してほしいと思います。



①適正体重を守る


18〜49歳の女性の適正体重の範囲は、BMI値で18.5〜24.9。やせ(18.5未満)は低出生体重児等の要因になり、肥満は妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群等につながります。適正範囲に収まるように妊娠の前に体重をコントロールすることが大切です。



②栄養バランスを整える


若い女性は、たんぱく質、カルシウム、食物繊維等が不足して、「低栄養」の傾向があります。1日3食きちんと摂り、できるだけ栄養バランスが整うように心がけましょう。また、葉酸(ようさん)も積極的に摂取してください。葉酸は胎児の細胞分化に不可欠なビタミンで、ブロッコリー、ほうれん草、納豆などに多く含まれています。日本産科婦人科学会では妊娠前からの葉酸サプリメントの服用も有効としています。



③適度に運動する


若い女性は運動から遠ざかってしまい、体力が低下しがちです。1週間あたりの運動量は150分ほどが目安。運動不足の人は今よりも毎日10分長く歩くなど、身体活動量を少しでも増やしてみましょう。



④禁煙する・受動喫煙を避ける


喫煙は流産や早産、低出生体重児などのリスクを高めます。今、喫煙している女性は妊娠する前に、完全に禁煙しましょう。自分の意思で禁煙が難しければ、禁煙外来の利用をおすすめします。また、受動喫煙も健康に影響を及ぼすので、パートナーも禁煙するとベストです。



⑤アルコールは控えめに


厚生労働省「健康日本21」によると、「節度ある適度な飲酒量」は、1日平均の純アルコールで20g程度です。しかし、女性は男性に比べてアルコールのダメージを受けやすい傾向があるので、妊娠前から純アルコール10g/日以下に控えましょう。純アルコール10g分とは、アルコール度数5%のビールなら250ml、ワインなら100ml程度です。



⑥ストレスを溜め込まない


過度なストレスは不安や抑うつの原因になります。ストレスを溜め込まないように、自分なりの発散方法を見つけておくことが大切です。

若くても健康診断を受け、病気の治療は早めに開始を

生活習慣病やがんは、早期発見・早期治療が有効です。会社や自治体による健康診断は、若くても、自覚症状がなくても、必ず受けましょう。また、20歳から2年に1回の頻度で、子宮頸がん検診もぜひ受けてください。妊娠すると口腔環境が悪化しやすいので、若いときから定期的な歯科検診も習慣にしましょう。

また、自分の母子手帳を見て、風疹など感染症のワクチンに接種漏れがないか確認をしてください。漏れがあれば妊娠前に保健所か、かかりつけ医に相談しましょう。HIV(AIDS)や性感染症の検査、治療については、パートナーがいる場合は一緒に行うことが必要です。

実際に妊娠・出産をするのは女性ですが、男性が正しい知識を持って適切に行動することも、女性や赤ちゃんの健康を守ることにつながります。すべての世代の男性にも女性にも、プレコンセプションケアの大切さを知っていただくこと、そして健康を促進していただくことを願っています。

荒田 尚子
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター
母性内科 診療部長、妊娠と薬情報センター兼務
プレコンセプションケアセンター責任者

令和2年度 厚生労働科学研究費補助金(女性の健康の包括的支援政策研究事業)「保健・医療・教育機関・産業等における女性の健康支援のための研究」研究代表者。次世代を担う健全な子どもの出生と成長も考慮した“女性医療”を内科の立場から提供している。専門は妊娠に関連した糖代謝障害や内分泌疾患。